勘と経験の可視化で支援
物流の結節点・貨物駅における現場改革
CONNECTer 秋山 哲司
パナソニック コネクト株式会社
現場ソリューションカンパニー
現場最適化ソリューション事業本部
「鉄道輸送の生産性向上」を目指して
私たちは長年、製造現場のさまざまなデータを科学的に収集・分析することで、作業工程や人員配置などの最適解を導き出すインダストリアル・エンジニアリング(IE)の知見を蓄積してきました。IEで培った工場の生産性を向上させるノウハウは「人が動く」「物が動く」という共通点をもつ物流現場の効率化にも寄与できるものです。
そこでいま、パナソニック コネクトがJR貨物様とともに取り組んでいるのが、「鉄道輸送の最適化」です。
喫緊の課題は荷役作業の効率化
JR貨物様は日本で唯一、全国ネットワークを持った貨物鉄道事業者です。全国241か所の貨物取扱駅をむすび、毎日400本以上の貨物列車を運行。1日における全列車の走行距離は約19万kmにも達し、地球約5周分に相当します。
一度に10tトラック65台分もの荷物を効率的に運べる鉄道輸送は、世界的に環境負荷低減が求められている昨今、その優秀性が再評価されている輸送手段です。石油、液化天然ガスといったエネルギー資源から、パルプ、食料品などの生活必需品まで、私たちの暮らしに欠かすことのできない物資を、昼夜を問わず、日本全国くまなく送り届けてくれています。
「物流の大動脈」として古くから日本社会の発展を支え続けてきた鉄道輸送は、すでに大部分で高度な効率化がなされています。しかし近年、直面している課題の1つが「担い手不足」。そして、その影響がとくに顕著なのが、熟練のノウハウが求められる貨物駅の現場です。
リアルタイムにデータを可視化する位置情報一元管理システム
各地の貨物駅では、フォークリフトによるコンテナの積卸しが絶えず行われています。フォークリフトオペレーターの勘と経験に頼る部分もまだ多く残っており、作業効率は熟練度の差によって大きく変わってしまうのが現状です。
経験の浅いオペレーターでも、効率的にコンテナの積卸しができるようにしたい。そのためにJR貨物様が活用されているのが、「TRACEシステム」です。フォークリフトオペレーターに荷役作業に必要な情報をリアルタイムに提供し、スピーディーな作業をサポート。コンテナホームのどこに、どんなコンテナがあるのかを常時把握できるようにするだけでなく、集配トラックが到着したことも瞬時にわかるため、スムーズに荷役対応ができるようになります。
現在の「TRACEシステム」は第三世代にあたり、その改修と機能拡充をパナソニックコネクトが担いました。第三世代では、第二世代から大きく次の3つの点で進化しています。
まず、1つめは位置情報の強化。コンテナの位置を詳細に把握できるようになりました。住所に例えるなら、第二世代は「丁目」までだったところが、第三世代では「番地」までわかるイメージです。
2つめは、操作性と視認性の向上です。「TRACEシステム」のインターフェースには、様々な現場作業(フィールドワーク)のIT化を長年支えてきた頑丈設計の「タフブック」を使用いただいているのですが、複数の情報を一画面に表示、より直感的な操作が可能になるなど、UI(ユーザーインターフェース)を改善しました。
3つめは、データ収集システムの構築です。フォークリフト作業におけるさまざまなデータを貯め込む仕組みを新たに追加しました。たとえば新人オペレーターのドライブレコーダーの映像記録を見て、ベテランオペレーターが作業のアドバイスを行うことも容易になりました。
「スマート貨物ターミナル 」の実現に貢献したい
そしていま新たに取り組んでいるのが、貨物駅全体の業務効率化です。経験豊富なオペレーターは、荷主からコンテナの中身を予想し、コンテナホームの留置位置を変えます。仮に食品であれば集配トラックが比較的早く受け取りに来るため、コンテナホームの入り口付近に置くという具合です。
現場に埋もれた熟練の技を解き明かしたい。その思いで実際に足を運び、オペレーターの方々にカメラやマイクを装着してもらうなどしてデータを収集・分析したところ、こうしたベテランならではの「暗黙知」が60種類以上もあるとわかりました。この暗黙知を可視化し、新人でもベテランオペレーターのように作業できるようにする。そのため、一層のデータ収集と分析を、現在急ピッチで進めているところです。
JR貨物様が目指しているのは、「スマート貨物ターミナル」の実現です。現状、貨物駅で行われる業務は貴重な人材を安全確保のための重要な作業に充てることで成り立っています。たとえば発車前、コンテナがきちんとロックされていることは、すべて作業員が目視で確認しています。例えば26両編成、130コンテナを積載する場合は、3,000箇所以上を目視することになります。
パナソニック コネクトが長年にわたって培ってきたセンシング技術を活用すれば、こうした目視検査の自動化にも貢献できるのではないかと考えています。究極的には、荷役や点検など、いま人が行っている作業のうちテクノロジーが得意なものはすべて自動化し、人は重要な意思決定や付加価値を生むクリエイティブな業務に集中できるようにしたいですね。
さらにその先に、集配トラックの到着順を最適化して連携をスムーズにするなど、さまざまな輸送手段の特性を活かして組み合わせる「モーダルコンビネーション」の強化にもお役に立ちたいと思っています。実現までの道のりはまだまだ遠いかもしれませんが、JR貨物様と連携して、日本の物流全体の最適化をかなえたいですね。
日本貨物鉄道株式会社
経営統括本部 技術企画部 部長
大坪 孝彰 様
【コメント】
貨物駅における業務の改善はこれまでも取り組んできましたが、フォークリフト作業自体の改善に ついては手が回っていませんでした。各貨物駅で作業環境や集荷状況などが異なるなか、ベテランの経験に頼っている部分が大きく、どこから手をつければいいのか判断がつかなかったからです。
今回、パナソニック コネクトさんが具体的なデータを収集・分析してくれたことで、フォークリフト作業の効率化の糸口が見つかったように思います。これを皮切りに、「コネクト」の社名どおり、さまざまな企業や人材、情報をつないでいただいて、一緒にサプライチェーンの生産性向上に貢献していければと思っています。