Blue Yonderとパナソニックの融合は何をもたらすのか?――実現に向けて加速するオートノマスサプライチェーン

Blue Yonderとパナソニックの融合は何をもたらすのか?――実現に向けて加速するオートノマスサプライチェーン
文:GEMBA編集部

2021年4月23日、パナソニックが米国アリゾナ州に本社を置くソフトウェア会社・Blue Yonderの全株式取得を発表。すでに20%の株式を保有しているなか、買収総額(残り80%の株式追加取得、有利子負債返済を含む)は71億ドルにのぼるという。サプライチェーン・マネジメント(SCM)ソリューションを提供するBlue YonderとIoT/エッジデバイスに強みをもつパナソニック。この融合は両社にとってどのような意義をもつのか。Blue Yonderとパナソニックのこれまでの歩みを振り返る。

Blue Yonderが目指すビジョンとは?

パナソニックが全株式取得を発表したBlue Yonderは米国アリゾナ州に本社を置くソフトウェア会社。サプライチェーン・マネジメント(SCM)領域におけるソフトウェアの開発、販売、導入、運用コンサルティングを主な事業としており、その企業価値は85億ドルにのぼるという。

全株式取得の発表を受けて、2021年5月7日に公開された動画のなかで、Blue Yonder CEO ギリッシュ・リッシ氏は次のように話した。

「4年前、Blue Yonderが思い描いたのはお客様がエッジ・テクノロジーを活用する未来です。エッジとは、サプライチェーンに真の影響を与えるポイントで、小売店の棚、出荷ドック、倉庫の従業員、配送トラック、ショップフロア、そして予測プランナーなどです。

私たちは、サプライチェーン・ソフトウェア市場で、類を見ない会社を目指しました。多くの同業他社がアプリケーションをクラウド化することに専念する一方で、Blue Yonderのビジョンは別の方向(エッジインパクトポイント)へも向かっていました。それは、エッジを活用してオートノマス(自律的な)サプライチェーンを実現したいというビジョンです。

私たちはこのオートノマスサプライチェーンのビジョンを実現しつつあります。すでにBlue Yonder Luminateプラットフォームには、管制塔機能や、リアルタイムの見える化、倉庫要ロボットの導入支援、倉庫内タスク管理、予測手法などの能力を実装しており、このビジョンの実現に貢献しています」

Blue Yonder CEO ギリッシュ・リッシ氏
Blue Yonder CEO ギリッシュ・リッシ氏

実際に物流業ではDHL、製造業ではLenovoなど3000社を超える企業でBlue Yonderのシステムが活用され、成果を上げているという。ギリッシュ氏は、サプライチェーン・ソフトウェアにおけるエッジ・テクノロジーの重要性を強調したうえで、パナソニックとの統合の意義について語った。

「クラウド型ソリューションを通じてインサイトを提供するBlue Yonderに、パナソニックはエッジデバイス、センサー、イメージング(画像化、視覚化)、モビリティなど、世界に展開している技術を相互補完的にもたらします。Blue Yonderとパナソニックの組み合わせはいわば、デジタルとリアルの融合です。

Blue Yonderとパナソニックの統合が、まだ直観的にしっくりこない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、AppleがiPhoneにiTunesを適用したように、IoT/エッジと企業向けソフトウェアは融合していくのです」(ギリッシュ氏)

両社はお互いを補う存在であるとしつつ、これまでの両社の協業について振り返り、スピーチを締めくくった。

「パナソニックとBlue Yonderはこの3年間でお互いをよく知るようになりました。パナソニックはBlue Yonderのお客様であり、日本での合弁パートナーでもあります。私を含めたBlue Yonderの経営陣は、パナソニックとの間で経験した文化的調和に特に期待しています。相互尊重、共通の価値観、共通のビジョンといった調和です。

“エッセンシャル”な時代に“エッセンシャル”なプラットフォームを提供する当社は、パナソニックの目指す“A Better Life, A Better World.”に欠かせない要素です。私たちはサプライチェーンによって世界を救い、より良いものにできると確信しています」(ギリッシュ氏)

サスティナブルなA Better Worldの実現
(提供:パナソニック株式会社)

Blue Yonderとパナソニック、3年間の歩み

今回の投資を決定するに至るまで、どのような経緯をたどってきたのだろうか。これまでGEMBAではBlue Yonderとパナソニックの取り組みを継続的に取り上げてきた。過去の記事を紹介しながら、両社の歩みを振り返っていきたい。

Blue Yonderとのこれまでの軌跡
(提供:パナソニック株式会社)

2019年1月にニューヨークで開催された世界最大級の流通専門展示会「NRF 2019」にて工場・物流・流通業へのソリューションの共同開発に関する覚書を締結。4月には合弁会社(ジョイント・ベンチャー:JV)の設立を発表し、「荷仕分支援システム (Visual Sort Assist™)」「欠品検知システム」「マルチモーダルセンシング技術」「顔認証技術」の4つのソリューションにおいて、パナソニックのリアルタイムセンシング技術をBlue Yonder (当時はJDA)のソフトウェアであるLuminateに連携させる取り組みを進めていた。JV設立の発表時点で「1年以上にわたりパナソニックチームと協業してきました」(ギリッシュ氏)と語られていた。

パナソニックとJDA Software Groupが見据えるサプライチェーンの未来――日本の「つくる・はこぶ・うる」をアップデートする

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Blue Yonderジャパン株式会社 代表取締役の桐生卓氏が「自律型サプライチェーン」のビジョンを語った。当時(2020年4月)の時点で小売業向けには「自律型サプライチェーン」に近いソリューション提供を開始しており、いずれパナソニックとの協業を基にした日本発のソリューションを海外展開することを目標に掲げていた。

Blue Yonderが描く“自律型”サプライチェーン――日本企業の課題を解決し改革を加速させるソリューションとは

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パナソニックはBlue Yonderのサプライチェーン計画系ソフトウェアを自社事業部門に導入。ノートPC「Let's note(レッツノート)」などを製造・販売する自身のサプライチェーン改革を進めてきた。2020年10月27日のオンラインセミナーで、そのプロセスや成果に言及した。

パナソニックはサプライチェーンの先進企業へ ――共創しながら「自律型サプライチェーン」の構築を目指す

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こうして振り返ってみると、両社の戦略やビジョンは当初から一貫して「オートノマス(自律型)サプライチェーン」を実現するという共通の方向に進んでおり、時間をかけて次第に関係を強化してきたことがわかる。

自動運転のように自律的に最適化される「オートノマスサプライチェーン」を目指す

一方、パナソニックは、この買収をどう捉えているのか。

2021年4月23日、パナソニック株式会社は、Blue Yonderの全株式取得を決定に際して、記者発表会を開催。同社 代表取締役社長の楠見雄規氏は買収を決断した理由について、「将来、CNS社(パナソニック コネクティッドソリューションズ社)が現場プロセス事業を軸にサプライチェーン全体にわたる革命的なソリューションを生み出していく上で、不可欠なピースであると考えたから」と語った。

また、今回の投資には「パナソニック自身のデジタルトランスフォーメーションを促進することで、私たちの現場力・オペレーション力などを強化するという狙いも含まれている」という。

パナソニック代表取締役専務執行役員で、コネクティッドソリューションズ社社長の樋口泰行氏は「今回の買収を通じてパナソニックが実現したいのは、あらゆるサプライチェーンの現場から自律的に無駄や滞留が省かれ、継続的に改善のサイクルが回っていく世界」である、とビジョンを示した。

パナソニックの目指すサプライチェーン改革ソリューション
(提供:パナソニック株式会社)

樋口氏はBlue Yonderを「サプライチェーンの世界において最大のソフトウェア企業。製造・物流・流通というサプライチェーンの上流から下流まで全体をカバーしている点で大変ユニークな存在。それぞれのインダストリーの名だたる大手企業、グローバル企業を顧客としています。顧客基盤は約3000社以上で、優良な顧客接点の厚みが魅力」と評した。

そのビジネスモデルについては、「CEO のギリッシュ氏の卓越したリーダーシップのもと、ここ数年でSaaSを積極的にドライブしている。クラウドベースのSaaSに移行させることにより、すでにリカーリング比率(継続的に利益を生む比率)は現在67%という高い水準にある」と収益性の高いビジネスモデルを築いている点を強調。

パナソニックとの相性について、「カルチャー的な親和性が非常に高い両社だと考えており、外形的な良さに加え、そうした(社内文化の)面でもベストマッチである」との印象を語った。

ギリッシュ氏のスピーチでも言及されたように、パナソニックの強みはハードウェアやIoT/エッジデバイスなどにある。Blue Yonderとの統合はパナソニックにとって「欠落していた、その上位レイヤーのデジタル領域、すなわちサプライチェーン・ソフトウェアが加わる」という意味をもつ。

部門や企業の垣根を超えた全体最適化を実現するうえでサプライチェーン・ソフトウェアは必要不可欠な要素といえる。これで、ソフトウェアまで含めたサプライチェーンの各領域をつなぐことが可能になった。

今後の展望について、樋口氏は「両社の融合を通じて、今までにない新しい IoT技術、製品、サービスを生み出し、コンビネーションでしか実現できないソリューションをどんどん生み出していきたい」と話した。

オートノマスサプライチェーン
(提供:パナソニック株式会社)

最後に、パナソニックとBlue Yonderの共通するビジョンである「オートノマスサプライチェーン」について以下のように説明した。

「サプライチェーンの上流から下流まで、現場のエッジデバイスやセンサーと上空のソフトウェアが自律的に連携し、あたかも車の自動運転のようにサプライチェーンが自律的に最適化され、オペレーションが自動で実現する未来。すなわち、オートノマスサプライチェーンを目指したい」(樋口氏)

近年、多くのグローバル企業は、不確実性の高い社会状況に対応するために、グローバル・サプライチェーンの再編成につとめてきた。さらにコロナ禍によって、従来のサプライチェーンにおけるさまざまなリスクが顕在化したことで、戦略の大胆な見直しやサプライチェーンの再構築なども見据えたSCMの重要性を指摘する声を耳にすることも増えている。

パナソニックはリアルとデジタルを融合させたSCMソリューション提供というビジネスについて、「事業立地、戦う場所を賢く選ばないと、5〜10年でビジネスがコモディティ化し、競合が激しくなってしまう。しかし、これだけ参入障壁が高い領域のソフトウェアで、顧客基盤をもちながら、リカーリングという収益レベルの高いビジネスモデルで成果を上げている。コンフィデンスレベル(信頼水準)は非常に高い」(樋口氏)と語った。

パナソニックとBlue Yonderの融合によって、日本企業においても先進的なサプライチェーン改革が広まることを期待したい。

【関連リンク】

Blue Yonderと目指すオートノマスサプライチェーンの実現に向けて