経営戦略の一端を担う「DEI推進室」の想い――当事者意識を原動力に企業カルチャーを変革する
パナソニック コネクトは、経営戦略の柱の1つとして「DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」の浸透に取り組んでいます。その活動をリードしているのが、2017年に人事総務本部内に創設された「DEI推進室」です。
自ら希望してDEI推進室のメンバーとなった3人の、DEIにかける熱い思いとは。企業のカルチャー改革を本気で進める、現場の最前線からメッセージをお届けします。
油田さなえ
パナソニック コネクト株式会社 人事総務本部 DEI推進室 シニアマネージャー
1999年に松下電器産業に入社。入社後は、システムエンジニア(SE)として、お客様の課題解決のためのソリューション開発を担当(現:現場ソリューションカンパニー)。その後、2017年にパナソニック システムソリューションズジャパン株式会社人事に異動。ダイバーシティ・人材育成・組合連携等の仕事を担当。2021年10月より、パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社(現:パナソニック コネクト株式会社)人事センター ダイバーシティ&インクルージョン推進室(現:人事総務本部 DEI推進室)室長。
古山 雄也
パナソニック コネクト株式会社 人事総務本部 DEI推進室
2013年にパナソニック株式会社に入社。入社後は、出向先のパナソニック溶接システム株式会社で溶接機や溶接ロボットの技術開発に携わる。その後、2022年9月に社内公募制度でDEI推進室に異動。
池松 奈穂
パナソニック コネクト株式会社 人事総務本部 DEI推進室
2020年にパナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社に入社。入社後はおもに公共領域のお客様を担当する営業職として、テレビ会議システムの提案などを行う。その後、2022年10月に社内公募制度でDEI推進室に異動。
それぞれの思いを秘めて、DEI推進室に異動した3人
――「DEI推進室」とは、どんな組織なのでしょうか?
油田:パナソニック コネクトは経営戦略の柱のひとつとして「DEI」を位置づけています。なぜなら、「少数であること」が理由で権利が守られない状況を妥協できない「人権」の問題だと考えているからです。また、「企業競争力の向上」のためには、多様な価値観を持つ一人ひとりが力を発揮し、イノベーションを創出し続ける必要があります。
未来に向けて企業が存続していくためにDEIは不可欠だと考え、取り組みを中心的に推進する組織としてDEI推進室があります。人事総務本部内の組織ではありますが、CHROのみならずDEI推進担当役員と連携して活動しています。
油田:コネクトには、日本の各地域にさまざまな部門や拠点があり、それぞれの「現場」でDEIの課題や取り組み状況が違います。「現場」に寄り添いながらDEIを浸透させていくために、各職場でDEI主導するDEI推進リーダーを「チャンプ」として選出し、一緒に活動しています。
――企業のなかに、DEI推進を専業とする組織があるのは珍しいですね。
油田:そうですね。現在、DEIの活動を専業で進めているメンバーは私たちを含め4人いるのですが、2017年の設立以降、約5年間はメンバー全員が別の部署との兼務でした。しかし、2022年にパナソニック コネクトとして独立したタイミングで「今後さらにDEIを推進していくためには、専任体制にしなければ」と考え、社内公募で新たなメンバーを迎えました。そこで手を挙げてくれたのが古山さんと池松さんでした。
――皆さんは、自らの意思でDEI推進室に異動したのですね。その決断にいたるまでに、どんな背景があったのでしょうか?
古山:私は「育休」を取得したことがきっかけです。まず、入社5年目の2018年に、第1子が誕生しました。責任ある仕事を任せられることも増える時期でしたし、当時はまだ男性社員が育休をとるような雰囲気でもなかったので、育休は取得しませんでした。
それから2年後の2020年に第2子を授かったのですが、さすがに妻ひとりで幼い子ども2人の世話をこなすのは大変すぎます。それで育休を取得したのですが、そのとき男性が育休を取ることの難しさを身をもって実感しました。
まず上司や同僚に説明して理解を得るのに一苦労でしたし、同僚に負荷をかけることへの後ろめたさもありました。男性がもっと育児に参加しやすくするために、ジェンダーギャップ(男女格差)をなくしたい。ひいては、さまざまなマイノリティの方々が抱えている悩みや不安も解消したい。そんな思いで社内公募制度を利用して、異動しました。
池松:私も社内公募制度での異動です。当時、新入社員として配属された部署では、30代以上の女性はほとんどおらず、マネージャーの多くが男性でした。そのようなロールモデルがいない状況で「私、将来どうなるんだろう……」とモヤモヤを抱えながら仕事をしていたところ、所属していた事業場内でチャンプと一緒に活動するDEIメンバーの公募があったんです。「なにか新しいことに挑戦してモヤモヤを払しょくしたい!」と思い、DEIメンバーに手を挙げ、さまざまな活動にかかわっていく中で、本業としてDEIをやってみたいと思ったのがきっかけです。
また個人的な話ですが、母の影響もありました。母は、男女雇用機会均等法が施行された1986年ころに就職活動をしていると思うのですが、「ものすごく苦労した」と言っていたんです。「当時、大卒の女性を受け入れてくれるところは、小売りと金融とコンピュータ関係ぐらいしかなかった。あとはもう“四大卒女性はお断り”という感じだった」と。
そんな時代から、多くの女性たちが苦労して、いろんな権利を勝ち取ってきてくれたおかげで、志望する企業に入れて、これから一生懸命働こうと喜んでいたら、実際の上司は全員男性です。母の時代から前に進んだことも多くあると思いますが、現実はまだまだ。そんなふうに感じて、これからコネクトに入る後輩に、自分と同じモヤモヤを感じさせたくないという思いで、いまDEI推進に取り組んでいます。
油田:私は、入社後ずっとシステムエンジニアとして働いていて、2015年に管理職になりました。子供をふたり育てながら、男性の中に女性は私だけという状況でマネージャーの仕事を両立するのは、今振り返ると、とても苦労しました。あまり意識していなかったのですが、私はマイノリティだったのです。
その頃、当時のパナソニック システムソリューションズ ジャパン社内で未来に向けた会社への提言を検討するプロジェクトがありました。20代の若手社員5~6名と、マネージャークラスの先輩社員1名でチームを組んで、若手メンバーと一緒に、先進的な取り組みをしている会社に話を聞きに行ったりしながら、「これからは人材の多様性を担保する取り組みを進めるべきだ」といった提案をしました。
このプロジェクトがきっかけとなり、2017年に人事に異動。そこからは、システムエンジニアの経験や、育児と管理職を両立した経験などを活かしながら、ダイバーシティの仕事に取り組んできました。子供がふたりとも女の子なので、自分の子供が就職する時に、DEIが日本全体で進んでいて、よりよい状況になるようにしたいという使命感がありますね。
2024年度の重点テーマは「障がい」と「外国籍」
――DEI推進室では、どのような方針で活動を行っているのでしょうか?
油田:推進室では、マイノリティギャップを解消していきたい領域を、9つ設定し、うち2つのカテゴリを年度ごとに重点項目として掲げて活動しています。昨年の重点項目は「介護」と「LGBTQ+」で、今年度は「障がい」と「外国籍」にフォーカスしています。
古山:以前、障がいのある全従業員に対して、「今、現場で起こっている課題は?」「就労環境において困っていることは?」といったヒアリングを行いました。そのとき挙げられた課題を、いま一つ一つ解決しているところです。
具体的には、障がいのある方の意見を取り入れ、総務と連携して社内設備を改善。ほかにも、「研修で動画を視聴するように言われたが、聴覚障がいがあるために理解できなかった」という声へのアンサーとして、今後、人事総務本部が配信する全従業員向けの動画に字幕を入れるなど、障がいの有無に関わらず情報が伝わるよう、DEIに配慮した情報発信のガイドラインのようなものもつくっていく予定です。
――これまでの活動のなかで、とくに印象に残っているものを教えてください。
池松:私は「東京レインボープライド」です。アジアで最大級のLGBTQ+のイベントで、今年は4月20~21日に開催されました。今回、パナソニックコネクトは最上位の「レインボースポンサー」として参画。2日間にわたってブース出展し、社長の樋口を含む役員11名、社員200名が参加しました。当日の様子をレポートとして発信しているので、ぜひご覧ください。
池松:今年も大盛況でしたが、個人的には初めて参加した昨年の「東京レインボープライド2023」がすごく心に残っています。その規模の大きさや熱気のすごさは事前に聞いていたのですが、実際にこの目で見て「これがダイバーシティの究極系だ!」と感動しました。
油田:実際、パレードが終わったあと、「すごく楽しかった。自分に何か手伝えることはない?」と聞いてきてくれた社員もいました。なかなか自分ごとにできていなかった人でも、イベントに参加してもらうことは、きっかけづくりとしてすごく大事なことだと思いました。
古山:自分は企業ブースの運営を担当したのですが、LGBTQ+の当事者やコネクトに興味のある学生など、本当にいろいろな方が来てくださって、驚きましたね。
油田:私が印象に残っているのは、2023年10月に開催した「コネクト DEI Month」です。介護と仕事の両立に関するセミナーや外国籍従業員同士がつながる座談会など、DEI推進室が企画したもののほかに、各事業場のメンバー(チャンプ)が中心となって、車椅子体験、左利き用のハサミ体験、子供向け絵本の紹介など各事業場でDEI浸透のためのイベントが数多く開催されていました。期間中実施したイベントは、なんと80以上もあったんですよね。
――1ヶ月で社内のイベントが80以上!? それはすごい数ですね。
油田:最初は「DEI week」くらいを想定していたんですが、やりたいことをどんどん挙げていったら、とても1週間じゃ収まらないな、と(笑)。運営はすごく大変でしたけど、結果的に多くの従業員に参加いただいて、すごくいい取り組みになったと思います。
また期間中、各部門のチャンプ全員を集めて、CEOの樋口と意見交換の時間を設けました。その際、樋口が「DEI推進は、企業競争力を高めるための経営戦略の一つとして取り組んでいます。ただそれ以上に、コネクトは社員一人ひとりの“人権”を何より大切にしています」と語ってくれました。直接その言葉を聞いたことで、チャンプの皆さんはすごく腹落ちしたようです。
トップダウンとボトムアップ、両側面のアプローチで「DEI」を浸透させる
――皆さんが活動するなかで感じた「DEI推進」のカギはなんだと思いますか?
池松:「人への思いやり」ですね。私自身、できていないことがたくさんあるし、マイノリティの方から声を上げてもらっても、その声に答えられないこともたくさんあって……。でも、ちゃんと声を上げてくれた人に対しては、「今こういう事情で、すぐには対応できないけれど、数年かかっても必ず実現します」ということをきちんと伝えていきたいと思います。
古山:私はDEIの活動を「木の根っこ」のようなものだと思っています。従業員がきれいな葉や花として、成長できる環境をつくるのが役目です。本当は仕事を続けたいのだけれど、育児や介護、あるいは「職場で嫌なことがある」「マイノリティが尊重されていない」といった理由で辞めていく同僚がいました。自分の仲間には、そうした理由で仕事を辞めてほしくない。誰もが活躍できる環境づくりに貢献し、腐ることなく一歩ずつ広げていきたいです。
油田:カギになるのは、やっぱり「チャレンジし続けること」。本当に終わりがないことだし、新しいことに次々とチャレンジし続けるというのが、DEI推進室のミッションだと思っています。室長になったとき、「DEIでやりたい100のこと」をリストアップしました。
かなりの数は実現しましたが新しく追加した項目も多いです。最近、数えていませんが、気づいたら、「200のこと」「300のこと」に増えているかもしれません(笑)。また、当社は「えるぼし」や「くるみん」といった認定を取得していますが、こういった認定が入札案件の条件になるなど、社会全体でDEIを推進する仕組みが整っていくことも重要だと考えています。
――最後に、今後の意気込みをお聞かせください。
池松:コネクトでDEIの推進がすごくやりやすいなと思うのは、CEOの樋口だけではなく、役員の皆さんがすごく前向きで、DEI推進の絶対的なサポーターでいてくれることです。コネクト全体の経営戦略の一つとして注力すると宣言されているからこそ、私たちも推進室メンバーも全力で臨んでいけます。
古山:本当にその通りですね。DEIが浸透することの重要性を、経営層からも、現場からも、伝えていくことで、コネクトで働くすべての人が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境にする。DEI推進室ではその土台づくりを、諦めずにやり続けていきたいです。
油田:トップダウンで「絶対、必要!」と強いメッセージを発してくれているから、私たちのような現場のメンバーも堂々と活動できる。DEIの推進は、本当に粘り強く地道な活動を続けるものです。この思いに共感してくれる人を少しずつ増やしていくことが、個人にとっても、コネクトにとっても、社会にとっても、良いインパクトを与えると信じています。