DEI推進のカギは「まずやってみる」こと。企業と自治体のダイバーシティ推進事例 #NoMaps2024
北海道を舞台に、毎年開催されている「次の社会・未来を創ろうとする人たちのための交流の場(コンベンション)」NoMaps。今回、アクセンチュア株式会社が協賛する「NoMaps DE&Iラウンジ」のセッションの一つとして開催された「ダイバーシティ組織とリーダーシップ~多様性が進む社会と、楽しく推進するカルチャー&マインド変革」に、パナソニック コネクトからDEI担当役員の山口 有希子が登壇しました。企業や自治体でのDEI推進の事例や、取り組む際のポイントについて語られたセッションの内容をレポートします。
山口 有希子
パナソニック コネクト株式会社 取締役 SVP CMO DEI担当役員
鷲頭 美央 氏
福井県 副知事
坂井 智則 氏
札幌市 経済観光局長
田中 淳一 氏
株式会社うるら 代表取締役会長 / 前 三重県 CDO
セッションはモデレーターを務める田中氏の「ダイバーシティという言葉はよく聞くようになったけれど、正直何からやっていいかわからないという方も多いのではないかと思います。ダイバーシティ組織への変革について、具体的な事例を知っていただき、推進のポイントについて知っていただきたい」という言葉から始まりました。
大企業病をなくしたい! パナソニック コネクトのカルチャー改革
最初の事例として、パナソニック コネクト DEI担当役員の山口 有希子が自社の取り組みについて紹介。「パナソニックという大企業でも、この7年で変わったという声を聞くようになりました。大企業でも、変われる。皆さんに勇気を持っていただきたくてお話をします」と切り出しました。
パナソニック コネクトは従業員約3万人、1兆2000億円規模の企業向け(BtoB)ソリューションのビジネスを展開するパナソニックホールディングスの事業会社です。2017年にパナソニック出身でさまざまな企業経営を経験したプロ経営者、樋口泰行が社長として経営に参画。「健全な文化がなければ正しい戦略を実行できない」という考えから、経営戦略としてカルチャー改革、そしてDEIの浸透を推進しています。
一例として、過去と現在のBefore/Afterを写真で紹介。典型的な「昭和」な姿と現在の姿の対比に会場からは笑いが漏れました。「まず、フォーマリティーの排除ということに取り組みました。なぜかというと、意思決定を迅速化するためです。そして、企業競争力を高めるためのみならず、人権の尊重という待ったなしの取り組みとして全社を挙げてDEI推進に取り組んでいます。人事だけではなく、全部門で取り組みを行う体制をとり、現場での困りごとを解決していくために年々取り組みが増えていっています」
「マネージャーは5時間のDEI研修を実施、実際に起きていた問題を赤裸々に共有し、議論します。また、男性に生理痛体験をしてもらったりもするんですよ。経験した方は、もっと早く経験していたらもうちょっと奥さんに優しくできていたかも…と言っていました(笑)」
続けて、山口は企業を動かすための数値目標、KPIの重要性について語りました。「男性育休に関して、数年前はわずか数%でしたが、今ではほぼ100%になりました。また、セクハラやパワハラといったハラスメントの撲滅に関してもカルチャーを壊す行為として日本一厳しいと言ってもいい罰則にしました。その結果、ハラスメント事案はかなり減りました」
従業員意識調査では約80%がカルチャーの変化を実感、DEI関連の項目に関しても年々改善が見られるといいます。
「実際、重要なのはリーダーである経営層の行動だと思います。リーダーが率先してカジュアルに皆とコミュニケーションをする、できていない役員がいれば行動変容を促す。それをやり続けることが変化につながると考えています」
女性だけでなく、誰にとっても働きやすい職場へ ― 福井県庁の働き方改革
続けて、福井県 副知事の鷲頭 美央氏が福井県での取り組みを紹介しました。福井県は女性の就業率が全国最高レベルで、女性の雇用率をグラフ化した際の「M字カーブ」を解消する先進地だといいます。しかし、女性の管理職比率は低く、その理由について経営者と話をすると「女性が管理職になりたがらないんだよね」という話になるそう。
「本質的に管理職になりたくない、というよりは、仕事も家庭も両方やるなんて無理!という課題を背負っていることが理由だと考えています。そして、風土。風土を変えるには女性登用を促進する必要があるものの、登用するには風土が変わらないと進まないというジレンマに陥っている」
そのような課題を解決するために、福井県の杉本 達治知事が、まず県庁からやってみて広げていこうと取り組みを開始。「Life style shift」というキーワードを掲げて「長く働くことを評価しません」と宣言し、早く帰り、休むことを奨励しました。「知事自身が17時には必ず帰ります。いろいろなことを変えていくために、県庁でもフリーアドレスやテレワークを導入しまして、知事は予算査定もオンラインで対応しています。知事のブレないコミットメントを伝え続け、実践をすることで、初めは難しいという意識があった職員も変わってきたと感じています」
女性登用という面においても「必ず職場に行く」「残業が前提」で、チャレンジすることそのもののハードルが高かったのですが、働き方改革を実践したことによって、2024年4月時点で女性管理職の比率は過去最高の23.2%と6年前と比較して約2倍になったといいます。また、男性育休取得を促進した結果、2019年に4.9%だった取得率が2023年には100%を達成しています。
「女性だけにとって、ではなく誰にとっても働きやすくなっていると思います。働きやすい職場をつくること、そしてきめ細やかな育成の取り組みとして、ロールモデルの事例発信や、スウェーデン流のコーヒーブレイクで家庭や仕事の両立について職員同士が話し合える“フィーカ”という交流会も開催しています。今後のチャレンジとして、評価システムでも取り組みを後押ししていきたいと考えています」
10年後、20年後生き残っていくためにはDEIが必要 ― 札幌市の取り組み
地元・札幌からは経済観光局長の坂井氏が登壇。札幌市では慢性的な人手不足が課題となっていますが、DXなどによる効率化だけでは限界があるといいます。「札幌市は多様な人材の登用状況という観点で分析すると、有業率が他の政令指定都市と比較して低く、もっと見ていくと共働き率は21都市中最も低い46.1%(総務省 令和2年国勢調査)となっています。これは結婚や出産を機に正社員の女性がお仕事を辞められてしまうということを示唆していると考えています。一方で若い方にアンケートを取ると70%の大学生が共働きを希望していて、大きなギャップがあります」
「札幌市の取り組みとして、企業向けにはダイバーシティ経営の推進を必ず行う重要項目として設定した『SDGs企業登録制度』を開始し、現在478社が登録企業となっています。また、女性活躍を推進するために『ここシェルジュSAPPORO』という女性向けの就労支援窓口の解説や、高齢者が職業体験をできる機会を設ける『シニアワーキングさっぽろ』といった施策を推進しています。札幌市の企業と話をすると、『DEIと言われても何をしたらいいのかわからない』という声が聞こえます。私は10年後、20年後生き残っていくためにはDEIが必要なんですと伝えています」
できそうなことからまずやってみる、そこから上昇気流が生まれる
モデレーターの田中氏は聴講者に向けて「各者の事例紹介を受けて、印象に残ったことから取り組み始めてほしい」としつつ、登壇者3人にコメントを求めました。最初に鷲頭氏が「課題は一個クリアしたら次、ではなく複層的なものなので、できそうなことをまずやってみるということが近道だと感じました」と話すと、パナソニック コネクトの山口は「官も民もチャレンジしている。先人は世界中にいるので学び合い、やれることをやってみることから、ダイバーシティ後進国と言われている日本も変わっていけると信じている。本気でやれば、変えられる。DEIの活動はみんなが幸せになるための活動、これは上昇気流なんですよね。やらなきゃダメではなく、みんながやればもっとよくなる、一緒にやろうという態度がとても重要だと思っています」と述べました。
坂井氏は札幌市の状況を踏まえて「数字が低いということは伸びしろがあるということ。やれるところから実践し、変わっていく。企業が変わっていかなければ求人しても選んでいただけなくなる。企業が選んでもらうためにもダイバーシティが重要なのだと気づいていただけるように取り組んでいきたい」と結びました。
編集後記
今回取材したNoMapsは、その名が示す通り「地図にない領域を切り拓く」をテーマとする自由度の高いイベントです。DEIにおいてもまさに「地図にない領域を切り拓く」ように「まずやってみる」ことから変化が生まれる、ということがセッションの中で語られました。これからの社会の中で誰もが働きやすい環境を作り、企業や組織が生き残るために、DEIは誰にとっても他人事ではありません。今回紹介された取り組みも参考に、できることからやってみていただけたら幸いです。