「本当に現場で使えるロボティクス」をともに生み出す仲間を集めたい――技術で社会を動かすパナソニック コネクトの技術者たち
2024年3月8日、パナソニック コネクトは物流倉庫におけるトラックの荷待ち時間を大幅に削減するオープンプラットフォーム 「タスク最適化エンジン(仮称)」と、ロボットアームや各種機器を簡単に制御できる「ロボット制御プラットフォーム」の開発を発表した。今後、ロボティクス技術を擁する企業との提携を拡大していくという。
パートナーを巻き込みながら、どんな未来を描くのか。スタートアップとの協業による短期間での新たな技術開発の裏側や、それを可能にした技術研究開発本部(以下、R&D部門)のカルチャーについて、前線に立つパナソニック コネクトの4名の技術者に話を聞いた。
「タスク最適化エンジン(仮称)」開発チーム
- 竹村 将志:技術研究開発本部 ソリューション開発研究所 ソリューションビジネス開発総括 システム開発部 開発1課 1係 アシスタントマネージャー
- 若山 達大:技術研究開発本部 ソリューション開発研究所 ソリューションビジネス開発総括 システム開発部 開発1課 1係
「ロボット制御プラットフォーム」開発チーム
- 松山 吉成:技術研究開発本部 先進技術研究所 ロボティクス研究部 1課 マネージャー
- 西尾 宣紀:技術研究開発本部 先進技術研究所 ロボティクス研究部 2課
スタートアップとの協業でめざす「柔軟な物流倉庫」
――2024年3月8日に発表された「タスク最適化エンジン(仮称)」と「ロボット制御プラットフォーム」を開発するに至った経緯を教えてください。
竹村:パナソニック コネクトは、国内外のサプライチェーンの課題解決をめざしてさまざまなソリューション開発に取り組んできました。その主要テーマのひとつが「物流倉庫の最適化」です。そんななか、CTOの榊󠄀原彰から「物流ロボット分野で優れたソフトウェア開発力を有しているスタートアップがあり一緒に取り組むことを考えたい」と、紹介されたのがラピュタロボティクスでした。
ラピュタロボティクスが得意とするロボット群制御技術に、パナソニック コネクトが有するインダストリアルエンジニアリングの知見やロボティクス関連技術を組み合わせ、“人とロボットが協調する物流倉庫”の実現をめざす。このような目標に向けて、人やロボット、自動倉庫「ラピュタASRS」などのタスク実行を最適化する「タスク最適化エンジン(仮称)」、およびロボット関連機器の統合制御や現場の状況に合わせた柔軟な構成変更を実現できる「ロボット制御プラットフォーム(仮称)」の開発が始まりました。
――ラピュタロボティクスとの協業がスタートしたのは、いつ頃でしょうか?
松山:本格的に動き出したのは、2023年の4月ごろでしたね。「タスク最適化エンジン(仮称)」開発チームのメンバーは6名でリーダーは竹村さん、「ロボット制御プラットフォーム」は12名でリーダーは私です。当初、上司からこのプロジェクト参加への打診があったときは、正直、あまりに壮大すぎて無理難題だと思いました(笑)。でも、竹村さんと一緒だと聞いて、受諾しました。
というのも、竹村さんとはかつて、とある仕事でフィリピンの離島やインドネシアの地方都市を一緒に回ったことがありました。過酷な旅を2人で協力して乗り越えることができたので、きっと今回も成功できるだろう、と。
――両チームのリーダーは、固い絆で結ばれていたわけですね。プロジェクトはどのように進んでいったのでしょうか?
西尾:まず基本方針として、庫内作業の一番のボトルネックとされているピッキング作業の効率化に焦点を絞りました。当初は大掛かりなシステムを組んで、ロボットの作業スピードやピッキング網羅率などのスペックにこだわって開発を始めたのですが、夏ごろからラピュタさんと本格的に共同開発を進めるようになって、その方向性の間違いに気づきました。
松山:ラピュタさんのオフィスを訪れた際、たまたま「ラピュタASRS」の商談の場に同席させていただく機会がありました。そのとき、先方の担当者がお客様に熱心に説明していたのは、「どんな倉庫にも導入可能」や「導入後のレイアウト変更できる」といった“柔軟性”だったんです。
物流の現場を熟知しているラピュタさんがそのようなアピールを行っている様子を見て、「現場では生産性と同じぐらい使い勝手の良さを求めている」ということがわかりました。
西尾:それで2023年10月に方針を大転換しました。「一緒にソリューションを提供していくなら、我々の製品も柔軟性を重視すべきだ」となって、全体の設計を一から見直し。ピックアンドプレース工程のロボットに関していえば、軽量性や移動性も追求して、現場の方々が簡単にタスク設定できるようGUI(Graphical User Interface)を採用しました。
それまでは主に専門知識をもったエンジニアが操作するものでしたが、方針転換後は「現場での使いやすさ」を重視した仕様にしました。
松山:大胆な方針転換ができたのは、アジャイルな開発手法である「スクラム開発」を採用したことも大きいです。チームごとに2週間おきに作業の進捗と方向性を確認し、月に1回程度、全体ミーティングを実施。その際、デモ機を動かしてチームメンバー以外からもたくさんご意見やアイデアをもらいました。そうした小まめな仮説・検証を繰り返すことで、どんどん完成度を高めていくことができました。
西尾:また、フィードバックが多くなったことで、メンバー同士で意見交換がしやすい雰囲気にもなったと思いますね。ラピュタさんとの連携も密になって、開発スピードも加速しました。いまは完全にワンチームになっている実感があります。3月8日のメディア向けの実動デモでも、トラブルなくデモをやり切ることができました。ひと月前までは、本当に間に合うのか冷や冷やしていましたが、ギリギリの状態をともに乗り越えたことでさらに結束が固まりましたね。
スクラム開発の採用で研究スピードが加速
――今回、スタートアップ企業と共同でプロジェクトを進めていくなかで、新たな発見や気づき、自分自身で成長したと感じる部分があれば教えてください。
若山:スクラム開発を経験できたことは、とてもいい勉強になったと思います。実は私は昨年の1月に、パナソニックホールディングスからコネクトへと転籍してきたばかりです。パナソニックホールディングスではロボット制御のための画像認識技術などの開発に携わっていたのですが、業務でクラウドの開発にも携わってみたいという気持ちがあって、今回、「タスク最適化エンジン(仮称)」開発チームのスクラムマスター(※1)兼開発者という立場でプロジェクトに参加させてもらいました。
※1 スクラムマスター:スクラム開発においてチームをサポートし、問題を解決するリーダー的な存在
最初はスクラム開発に馴染みがなく不安でしたが、社内のさまざまなプロジェクトのスクラム開発をサポートする部署があり、その部署の方にも協力していただくことで、意外とスムーズに事が進みました。2週間ごとにアウトプットを出すというサイクルにも、みんなすぐ慣れました。行き詰まってるメンバーはいないかなど、チーム全体に目を配る意識が芽生えたのも、スクラム開発を実践したおかげです。
松山:私も今回、初めてスクラム開発に取り組み、ソフトウェア開発だけでなく、ハードウェアを含むエッジ側の開発にも有用だとわかったのは、新たな発見でした。
「お客様の価値を第一にしよう」とチームの目標を決めて、メンバーそれぞれがそのためにどうすればいいのか考える。それらの意見をすり合わせながら開発を進めていく。こうした手法によって開発スピードがどんどん加速していったと感じていますね。
竹村:スタートアップのスピード感、意思決定の早さに触れたこともいい経験です。僕らならば慎重になって「1か月かかります」というような工程でも、ラピュタさんは「1週間でできます」と言うんです。不測の事態が起こる可能性や細かい懸念点は一旦考えずに、とにかくどんどん物事を前に進めていく。大きな組織のものづくりとはまったく違って、新鮮でした。
松山:プロジェクトを常に動かし、その進捗を社会に対してアピールすることで、存在感を示していくという側面もあるんだと思います。僕たちもその姿勢は学ぶべきですよね。さまざまなステークホルダーを巻き込みながら研究開発をしていくためには、対外的なアピールも忘れてはならないと思います。
――ここ数年、パナソニック コネクトは全社的に大規模な組織改革を進めていますが、R&D部門でもカルチャーの変化を実感することはありますか?
竹村:榊󠄀原さんが本部長に就任されてから、「R&D部門なんだから、失敗してもいいので新しいことにチャレンジしよう」と強く発信されて、職場の雰囲気が変わってきたと思います。
しかも、「Blue YonderというSaaSビジネスで成功している企業をお手本にしながら、クラウドやソフト開発に力を入れていく」という明確な戦略が示されたことで、研究開発がやりやすくなったと感じています。
松山:ロボティクスの研究者は、どうしてもロボットそのものの開発や製作をやりたがってしまうんですが、年々、さまざまなロボットや周辺機器を連携・統合するためのSaaSサービスやソフトウェアの重要性が増してきています。その領域に積極的にチャレンジしていくべきだという方針を明示してもらったのはありがたいですね。
竹村:私自身、SaaSサービスの勉強のために、4か月ほどBlue Yonderに出向していたのですが、彼らと一緒に仕事をしていると、自分たちの開発の手法や体制が少し時代遅れになっていたんだと実感する機会が多々ありました。いま、その経験をR&D部門に持ち帰ってみんなに伝えているところです。
西尾:榊󠄀原さんが掲げられた「Think Big, Act First and Fail Fast.」(大胆に発想して、とにかく手を動かし、早く失敗する)というスローガンの影響も感じます。
失敗して得た経験や知見をオープンに共有することで結果的に開発スピードが上がりました。このスローガンが浸透してきたことで、技術者としてのマインドセットも変わってきましたね。
若山:昨年、R&D部門に入って最初に感じたのは、「社員の成長を応援する文化」が根付いているということです。たとえば、資格受験費用の補助制度やオンライン学習プラットフォーム「Udemy Business」の講座を無料で自由に受講できる制度など、成長意欲の高い技術者にとって働きやすい環境になっています。
また、若手も責任ある仕事が任せられる裁量の大きさも感じていますね。竹村さんや松山さんをはじめ、経験のある先輩方も親切で、わからないことを聞いたらすぐ教えてくれる。そんな風通しのよさもあります。自分も将来、ベテランと呼ばれるようになったら、自分の経験を若手に還元していきたいと思います。
技術で世の中を動かす「仲間」を増やしたい
――最後に、皆さんの今後の目標について教えてください。
竹村:いまクラウド開発の人材が不足しているので、その育成に力をいれていきたいと思っています。そんなに難しいことではないので、クラウドに興味のある方は、ぜひチャレンジしてみてください。そして、いずれこの物流倉庫の協業プロジェクトに参加してもらいたいですね。
若山:以前、私がパナソニックホールディングスでロボットの技術開発を行っていた際、ロボットをビジネスに展開することの難しさをすごく感じていました。今はクラウドシステム開発者として、クラウド側からロボットをうまくコントロールすることで価値を生み出し、ビジネスにつなげられるように頑張っていきたいです。
西尾:私は、自分の持っている技術や知識を人のために役立てたいという思いで、パナソニック コネクトに入りました。「研究の成果をビジネスに昇華させて社会実装していく」というのが、企業に勤める研究者として正しい考えだと思うので、この「ロボット制御プラットフォーム」もちゃんとビジネスとして成立するところまでやり切ります。
そして「プラットフォーム」というだけであって、パートナー企業さんの技術がなければ成り立たない仕組みなので、ぜひ多くのロボティクス企業さんに参画いただきたいですね。
松山:本当にその通りで、せっかく優れたロボット技術を開発しても、うまく社会実装できない、ビジネスとして成立させられない、ということで苦労されている企業の方も多いはずです。私たちは、そのようなロボットをクラウドでつなぐことで、新たなロボティクスの価値を生み出していきたいと思っています。
お客様に喜んでもらって、ロボティクスをきちんとビジネスにしたい。そういう同じ志をもった仲間たちが増えるのは大歓迎です。自社の技術を世の中のために使いたいと思っている企業さんは、ぜひお気軽にお声がけください。一緒に物流倉庫の現場を変えていきましょう。