【パナソニック コネクト×ラピュタロボティクス】「人と協働できるロボティクス」で、サプライチェーンの未来を切り拓く
ドライバーの労働時間に上限が課されることで生じるとされる「2024年問題」をはじめとして、日本ではサプライチェーンの人手不足の深刻化が囁かれています。しかし、パナソニック コネクト エバンジェリストの一力知一は「トラックもドライバーも、実は不足していない。2024年問題の根幹は、“倉庫内のオペレーション”だ」といいます。その倉庫内オペレーションを改善する手段として期待されてきたのがロボティクスですが、「投資対効果が見合わない」「使い方が専門家にしか分からない」などの理由で導入が見送られるケースも多いのが実情です。
こうした状況を打破するために、パナソニック コネクトは自動倉庫「ラピュタASRS」をはじめとする物流ロボットソリューションを提供するラピュタロボティクスとの協業を開始しました。一力とラピュタロボティクスCEOのモーハナラージャー・ガジャン氏に、人とロボットが協働する物流倉庫を実現するための取り組みやビジョンについて語っていただきました。
省人化ではなく人とロボットの強みを融合し実現する、物流倉庫の最適化
――あらためて、いまの日本のサプライチェーンの課題はどこにあるとお考えでしょうか。
ガジャン:サプライチェーンそのものが複雑になり過ぎているという根本的な問題があると思います。ひと昔前までは、調達→製造→管理→輸送→販売と、まさに一連のチェーン(鎖)でモノが動いていました。しかし、昨今は「サプライウェブ(蜘蛛の巣)」という言葉が登場しているように、Eコマースの商品を製造元から直接配送したり、1つの倉庫から膨大な数の店舗に配送したりと、ニーズの多様化によって製造・物流・流通におけるモノの流れが複雑化しています。そうした問題が、現場の負担の増大につながっているのではないでしょうか。
一力:おっしゃる通りですね。部品点数の多い工業製品ともなれば、1つの商品が消費者の元に届くまで、数千~1万ものノード(物流拠点)を通過しているはずです。そして、その各ノードが納期を死守するために、必要以上のバッファを設けている。私はそれも問題だと思っています。
たとえば、本来トラック10台分の輸送量で事足りるのに、不測の事態に備えて11台用意したとします。1000か所のノードが同じようにバッファを持てば、1000台のトラックとそれを運転する1000人のドライバーが必要になります。ここに、「2024年問題」の本質があるのではないかと私は見ています。
――なるほど。実はトラックも人手も、不足していないと?
一力:はい。「トラック配送」がサプライチェーンの一番のボトルネックなのは間違いない。ただ、そもそも物流倉庫のオペレーションを最適化できれば、過剰なバッファを減らせるはずですし、トラックの「待機時間の長さ」「積載率の低さ」の課題も解消され、2024年問題も解決できる。それが私の考えです。
――しかし、多くの物流倉庫では、すでにロボットの導入などによって最適化、自動化を進めているのではないでしょうか。
一力:一般的なイメージでは、いかにも物流拠点ではロボット導入が進んでいるように思われていますが、実際にはほとんど実用化されていません。
ガジャン:導入ハードルがかなり高いですよね。ただ、そのことがあまり世の中に知られていない。現実には、まだまだ人の手による作業が中心です。
一力:やはり、人間に備わっている高度な判断力と複雑な作業能力は、まだロボットでは再現できないんですね。たとえば、ペットボトル飲料をピックアップする作業をロボットにやらせようとすると、AIに動作を学習させて、画像処理をかけて、各種センサーと連動させて……と、煩雑な準備が必要になります。それが人間だと1秒でできてしまう。
ガジャン:ロボットが人と全く同じように正確なピッキング作業ができるようになるには、少なくともあと10年はかかると思います。ですから人を代替するのではなく、人間の強みと、ロボットの強みを融合させて、最適化を目指しています。
一力:そうですね。私たちは人が全くいない自動化を目指しているわけではありません。ロボットの力を活用して、物流倉庫で働いている人の価値をより高める。それをガジャンさんたちと一緒に実現していきたいと思っています。
目前に迫った「2024年問題」を解決するために必要だったスピード感
――今回の2社の協業は、どのようにスタートしたのか教えてください。
一力:最初の出会いは数年前、ラピュタロボティクスが物流倉庫用のピッキングアシストロボットを紹介してくれたことが始まりです。その際、自動倉庫「ラピュタASRS」の構想をガジャンさんから伺って、一気に恋が芽生えました(笑)。技術的にすごくいいものだし、「ロボットと人が融合して現場の課題を解決する」というコンセプトも、私たちコネクトが目指す姿そのものだと感じました。
ガジャン:昨年、協業の話をご提案いただいたときは、正直、時期尚早ではないかと心配になりました。一力さんには「まだ開発段階なので、ご迷惑をかけてしまう恐れもある。それでも大丈夫ですか?」と何度も聞き返しました。それでも一力さんは「一緒につくり上げていきましょう」と言ってくださった。その言葉をいただかなければ、協業は数年、先送りになっていたと思います。
一力:私たちのように大きな組織になってしまうと、どうしても開発のスピード感が欠けてしまうんです。目前に迫った2024年問題に資するソリューションを、一刻も早く社会に実装するためには、実力とスピードがあるスタートアップと協力するのが一番だと考えました。実際、今まさに、この研究棟の一室で、両社のエンジニアが一緒になって開発を進めています。熱い議論になることもあって、すごくいい雰囲気です。
サイバーとフィジカルの連動で、本当に「使える」ロボットを生み出す
――では、具体的に両社のどのような強みが物流倉庫の最適化を可能にするのでしょうか?
一力:パナソニック コネクトには、長年にわたって培ってきたインダストリアルエンジニアリングの知見があります。その知見をアルゴリズムとして活かして、物流倉庫全体で作業を最適化するためのオペレーションと、それを制御するソフトウェアを設計し「ロボット制御プラットフォーム」を開発しました。そして、ソフトと連動するハードウェアによる実作業の部分を、ラピュタロボティクスさんのロボット技術をベースにつくり上げていきたいと思っています。
ガジャン:われわれが得意としているのは、人に優しいUIのロボット開発です。「ラピュタASRS」は、作業者の隣まで出荷ビン(専用コンテナ)が自走してくれる自動倉庫です。これにより、作業者は倉庫内の面倒な移動をすることなく、ピッキング作業に集中できます。ピッキングが完了した出荷ビンも、指定の出荷場所へと自走し、トラックの荷受けを待つだけです。人が悩みがちな「どこから何をどれくらいピッキングすれば良いのか」という問題についても、画面上で指示を出してくれるUIになっています。
一力:これはロボティクス導入が進まない理由の一つでもあるのですが、ロボットを倉庫内で最適に動かすためのパラメータ設定は、人が考えないといけないわけです。その検討にあたってデータが必要なのですが、ピッキング作業を例にとれば、すべて人が作業していますし、作業者ごとの能力差もあるため、作業時間を正確に予測できず、それによって生まれる計画とのずれがトラックの待機時間を増加させる要因にもなっていました。
しかし、「ラピュタASRS」では、個人の作業時間のデータ取得も容易です。我々はそのデータを活用して作業時間を標準化し、ロボットとも連動した計画を立てることで、作業時間の予測精度を上げることを目指します。トラックを待たせることも少なくなるはずです。
ガジャン:ロボットの介在が多くなれば、それだけデータが取得できますよね。
一力:実行データをクラウド上のソフトウェア(Cyber)で計算し、その計算に基づいて物理空間(Physical)のロボットと人を効率的に動かしていく。こうした「CPS(Cyber-Physical System)」の考えは、ロボットの社会実装を進めるうえですごく大切だと思います。日本ではソフトウェアの高度化による最適化が注目されがちですが、重要なのはその先にあるアクチュエーターとの連動です。いま我々がやろうとしているのは、物流倉庫内でバラバラに稼働しているロボットや機器をデータでつなぎ、人間にとって最適な動きをしてもらうというオーケストレーションシステムの構築です。
さらにそのロボット群と、WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)が連動すれば、トラックの配送効率を極限まで高めることができます。倉庫で扱う商品や種類も時期によって当然変わるわけです。ロボット同士をデータでつなげば、配送商品や出荷時刻に合わせて、リアルタイムでロボットの台数や動きを変更できるような柔軟なシステムも可能になります。たとえば、「今日は人手が足りないから稼働ロボットを5台に増やそう」とか、「これは急ぎの出荷だからロボットはゼロ、人間でやってしまおう」というような具合です。
ガジャン:人間の生産性を上げるシステムづくりですよね。自由にレイアウトを変更できる「ラピュタASRS」がパナソニック コネクトさんのオーケストレーションシステムと連動すれば、生産性10倍アップは実現できるのではないかと思っています。
一力:私は「省人化」という言い方はしたくなくて、現状の人数で、もっと多くの作業ができるようにしたい。ChatGPTを活用して多くの人が業務効率を上げているように、物流倉庫でも人間がロボットを従えてテキパキ仕事をこなしていく。そんな風景を思い描いています。
導入コストを下げて裾野を広げ、サプライチェーンから環境問題を解決したい
――具体的にはどのような現場での活用を想定しているのでしょうか?
一力:とくに導入効果が高いのは食品や日用品など、膨大なSKU(最小識別単位)を扱う倉庫や在庫型の物流センターなどでしょうか。取り扱い点数が多ければ多いほど、AIやロボットの活躍の機会は多くなります。
やはりこれだけ複雑化したサプライチェーンにおいて、全体の最適解を導き出すというのは、もはや人間には不可能です。そうした面倒な計算はAIに任せて、人間はロボットと協働して一つ一つのオペレーションに集中する。そうした役割分担が理想だと思います。
ラピュタさんと協業して、本当に優れていると感じたのは、AGV(無人搬送車)の稼働率を限りなく100%に近づける技術です。ロボットの導入が進まない背景には、「投資対効果の悪さ」が挙げられますが、ロボットが24時間100%で稼働してくれたら導入したいと思う企業も多いのではないでしょうか。
ガジャン:一般的なAGVだと、8時間稼働すると4時間程度の充電が必要になりますが、当社のAGVはバッテリー交換式なので、充電時間は必要ありません。24時間フル稼働も可能です。作業員が帰った夜中も稼働して、翌日の出荷の準備をしてくれるようなシステムができれば、投資回収期間も圧倒的に短くなります。
一力:Blue Yonderの需要予測システムと連動できれば、さらに費用対効果を高められそうです。需要予測をして、販売計画を組んで、そのデータを製造・物流の現場に共有して最適なオペレーションを設計できたら、これまでのサプライチェーンの景色が大きく変わります。たとえば、翌日の天気が雨なら、夜中に雨対策の商品をピッキングエリア付近に自動的にロボットが配置してくれているわけです。
――最後にお二人の今後のビジョンをお聞かせください。
一力:いま、パナソニックは「地球環境の課題を解決する企業になる」という宣言をしています。そのためにも日本のサプライチェーンを強くするということは非常に重要です。
トラックの配送効率が上がればCO2排出量の削減にも繋がって、地球環境にも貢献できます。まさに持続可能な社会を実現して、次世代に引き継いでいくためにも、人、ロボット、ソフト、AIが融合したサプライチェーンの全体最適を実現したいと思います。
まずは物流倉庫から始めますが、そのデータを使って、倉庫の入荷前・出荷後の工程も含めたソリューションの提案をしていきたいですね。お客さまに、「こんな領域でもロボットが使えるんだ」と実感していただける日もそう遠くないと思っています。
ガジャン:私は、もっとロボットを普及させたいですね。大金を投資しなくても、人とロボットが調和して、さまざまなプロセスに柔軟に対応できるシステムを提供したい。そのためには、パナソニック コネクトさんをはじめ、多様なパートナーさんとタッグを組んで頑張りたいと思います。
一力:まさにロボットの民主化ですね。一緒に頑張りましょう。
ガジャン:ありがとうございます。物流倉庫の現場を変えていきましょう。