コロナ禍で注目を集めている簡易宅配ボックス「OKIPPA」 ――再配達問題の解決に向けた新しい物流のかたちとは
新型コロナウイルスの影響で“非対面”での荷物受け取り需要が高まるなかで、アプリ連動型置き配バック「OKIPPA」が、注目を集めている。「簡易宅配ボックス」ともカテゴライズされるOKIPPAはその利便性が評価され、2019年2月時点で約6000個だった販売総数が、2020年8月現在はおよそ15万個まで急増。2020年末までに60万世帯への普及を目標に掲げている。OKIPPAを製造、販売するYper株式会社は、物流業界だけでなくサプライチェーン全体でも大きな足かせとなっている再配達問題の解決を目指し、2017年に設立されたITベンチャー。内山智晴代表取締役は「再配達問題は、OKIPPAが普及していけば解決していく。そのためにまずはOKIPPAを生活インフラアイテムとしてスピーディーに世の中に定着させ、次にこのプラットフォームを使ってさまざまな社会課題の解決を目指したい」とさらなる挑戦も見据えている。
アプリと連動すると無料で盗難が補償される、置き配バッグ「OKIPPA」
――内山代表取締役への取材は今回が2回目ですが、前回の記事は2019年2月に掲載させてもらいました。改めて御社の業務内容やOKIPPAなどについて教えてください。
内山:Yper株式会社は2017年に、社会課題となっている再配達問題を、宅配ボックスの普及率を高めていくことで解決するために設立しました。従来の宅配ボックスは玄関前の設置スペースや費用の問題などで普及が難しい状況でした。そうしたなかで、我々は宅配ボックスの役割を担う置き配バッグ「OKIPPA」を開発しました。広く普及させることが目的なので、バッグは簡易なつくりにして、価格も安く設定しました。
内山:置き配とは、宅配会社の配送員が玄関などあらかじめ決められた場所に荷物を置いて届けることですが、OKIPPAはこの置き配のセキュリティーを高める製品です。57ℓと大容量のOKIPPAは、13センチメートル四方に折りたためて、誰にでも扱いやすくしてあります。OKIPPAを自宅玄関前に吊り下げておくと、配送員がバッグを広げて荷物を中に入れてくれるので、荷物を受け取ることができます。
OKIPPAの最大の特徴は、アプリと連動している点で、我々が開発した「OKIPPAアプリ」で配送状況の確認、「置き配保険」など様々な機能を有効に使えます。実は、我々の業務のメインはバッグの製造、販売ではなく、アプリやシステムの開発なのです。
――前回の取材からの1年で新しい動きや試みがあれば教えてください。
内山:大きく2つの変化があります。1つ目は、先ほども申し上げた「置き配保険」のスタートです。OKIPPAには建物への固定用とバッグの開閉部に2カ所のカギがついていますが、それでも一定数の盗難などは起こり得ると想定しています。そこで、もし盗難などがあれば、保険で対応します。荷物の情報は発注時にOKIPPAアプリに登録されており、荷物がなくなったときはアプリから報告してもらえれば、補償します。これまで保険の種類は、宅配利用者のためのものだけでしたが、7月から順次、荷主、宅配業者向けも含め3種類の補償や保険を用意していく予定です。
内山:2つ目の変化は、「オートロックマンションエントランス解除システム」です。従来から置き配の実施にあたっては、オートロックマンションで利用できないことが課題になっていました。2019年末に、必要に応じてオートロックを解除するスマートロックの開発会社と提携して、東京で400世帯、大阪で70世帯ほどのマンションで実証実験を終えました。効果が実証できたので、2020年夏以降、実用化する予定です。
Rakuten EXPRESSとの協業で認知を拡大
――4月から楽天の配送サービス「Rakuten EXPRESS」と協業を始めましたが、これによって何が実現したのでしょうか。
内山:今回の協業で何が大きく変わったかと言うと、楽天様側のシステムである商品申し込み時の画面、「置き配希望場所」の欄で、「OKIPPA」の選択肢を設けていただいたということです。そのうえ、配送員が荷物をOKIPPAに入れると、「配送完了(置き配:OKIPPA)」という通知がされるようになったのです。こうしたOKIPPAという選択肢と配送完了通知が実装されたのは今回が初めてです。これまではOKIPPAに荷物を入れたかどうかはわからず、「配送完了しました」という通知だけでしたから、大きな進歩だと言えます。
内山:OKIPPAの周知という点でも、荷主である楽天様とのつながりができ、多くの楽天会員にOKIPPAの存在を知らせることができますから、それだけでも大きなメリットです。また、Rakuten EXPRESS様はオリジナルデザインのOKIPPAを抽選で計1万個を無料配布しており、OKIPPAの認知をさらに広げていただいています。
――2020年1月から大阪府八尾市ともOKIPPAの実証実験をされましたが、どのような結果がでましたか。
内山:今回の実証実験では、大阪府八尾市と大手配送会社の協力のもと、八尾市在住のモニター724世帯にOKIPPAを無料配布しました。この実験により、74.5%の再配達が削減され、以前に東京都杉並区で行った61%という実証実験の結果を大きく上回りました。その理由としては、八尾市主導で「市政だより」などで事前に市民に周知していたことで、一定の効果をあげたからだと思います。なにより、これまでの実証実験との一番の違いは、自治体と共同で取り組めたという点です。実証実験は繰り返し行っていますが、自治体との実証実験は今回の大阪府八尾市が初めてでした。物流は公共のインフラなので、社会課題である再配達問題の解決のためには、今後も自治体との連携は欠かせないと考えています。
内山:配送会社はヤマト運輸様、佐川急便様、日本郵便様にご協力いただきましたが、アンケートでは、95%の配送員が「OKIPPAが普及してほしい」と回答しました。全体のアンケート結果も非常にポジティブで参考になり、今後も自治体と組んでできるものがあれば、積極的に進めていきたいと思っています。
国交省が集合住宅共用部への置き配容認で、見込まれるOKIPPAの急増
――OKIPPAの販売総数は2019年2月の時点で約6000個でしたが、現在はおいくつですか。
内山:現在は15万個です。年末にかけて60万世帯まで引き上げていきたいと思います。特に、マンションなどの集合住宅での需要の急増を見込んでいるのですが、その一番大きな要因は、法解釈の変化です。集合住宅での共用部分に関する置き配の利用について、建築物を管轄する国土交通省が2020年3月に「共用部分に避難の支障とならない少量または小規模の私物を暫定的に置く場合は、社会通念上、法的問題にならない」という見解を出したことが追い風になっています。
2019年3月から国土交通省と経済産業省主催の「置き配検討会」が開かれ、弊社も構成員の1人として参加しているのですが、集合住宅でOKIPPAを使うのは消防法的にどうなのかという懸念がずっとありました。しかし国交省からこうした見解が公式に出たことで、マンションオーナーや管理会社も動きやすくなり、我々も集合住宅にOKIPPAをどんどん入れていこうと弾みがつきました。
そこで、新規事業として2020年5月から着手しているのが、集合住宅などの不動産向けサービス「OKIPPA for不動産」です。オーナーや管理会社などがOKIPPA for 不動産で物件登録をすると、OKIPPAが使える=宅配ボックス利用可能物件として入居者にアピールできるのです。オーナーにとっては、従来の宅配ボックスを設置するときのような初期費用や維持費がかかりません。9月には500世帯が入るタワーマンションにOKIPPAを導入する予定で、今後も需要が見込まれます。
コロナ禍による意識の変化で、宅配ボックスは不在時だけでなく“在宅時”でも使うものに
――新型コロナウイルスの影響で、生活必需品などのECの利用が拡大し、また非対面での荷物受け取りを希望する利用者が増え、OKIPPAの需要が伸びていると思います。実際、物流業界にどのような変化が出ていますか。
内山:コロナ以前は、OKIPPAに限らず宅配ボックスは不在時に使うものでした。ですがここにきて、ユーザー、一般の消費者の考え方が、“在宅でも使えるもの、使うべきもの”へと変わってきていると思います。それは感染リスクを避け、非対面で荷物を受け取るためです。それに伴いOKIPPAの販売数も2月から3月で2倍になり、3月から4月はさらに倍増しました。
また、物流業界からは、特にお客様に一番近い、配送会社やドライバーからの問い合わせが増えています。会社としては配送員にリスクがあるので対面を避けさせたいが、安全面から段ボールをポンとそのまま置いてくるのは不安なようです。OKIPPAを、物流会社が販売できるようにしたいという問い合わせもあります。我々の事業の目的が、配送員の業務効率化や軽減にあるので、そういった状況が作り出せたり、配送員の安全を確保できたりするのなら、ほぼ原価でお渡して販売してもらうことも考えています。
置き配の環境を適切に管理する役割を持つOKIPPA
――やはり、コロナ禍による変化は大きかったのですね。
内山:新型コロナウイルスの影響で置き配がぐっと増え、置き配が受け取り方法の選択肢の1つとして定着したのが大きな変化だと思います。Amazon様が3月から30都道府県で、利用者からの希望がない場合は玄関の置き配を標準配送方法にされたことも世間を驚かせました。
ただ、置き配を増やそうという動きは、このコロナ禍から始まったわけではありません。先ほども申し上げた、国の「置き配検討会」で2019年3月から、再配達問題解決のための方法として前向きに議論されてきたことです。たまたまコロナ禍で非対面の受け取りが求められるようになり、一気に置き配を進めてしまおうと加速したのです。
内山:検討会では、置き配について、安全面のところをどう担保していくかという点が課題でした。盗難されれば、すべての荷物には名前や住所が書かれたラベルが貼ってあるため、個人情報が流出します。そういったなかで、カギの付いたバッグで、盗難補償もあるOKIPPAの役割は重要だと思っています。というのも、盗難などの問題に対応していかないと、「やはり置き配は危ないからやめよう」となり、利用者が減ってしまえば置き配で解決しようとしている再配達問題が、以前の状況まで逆戻りしてしまいます。だからこそ、今が業界にとって大事なタイミングです。再配達問題の解決を考えたときに、置き配はどうしても必要な選択肢です。重要なのは、置き配という環境を適切に管理して、リスクコントロールしていくことだと考えています。
インフラ化するOKIPPAを基点に、リアルなサービスを展開
――今後はOKIPPAを荷物の受け取り以外にも利用することを検討しているそうですが、どういったものでしょうか。
内山:保険の機能やマンションのオートロックの解除システムなど必要なサービスが揃ったこともあり、玄関前のOKIPPAを、発送にも活用できるのではないかと考えています。
内山:ファッションレンタルのMECHAKARI様と、4月から2カ月間の実証実験を行いました。レンタルサービスは月額定額制なので、ユーザーはより多く借りた方がお得です。しかし、受け取りと返却のための発送に手間がかかるため、そこを解消できないかという要望がきっかけでした。この問題は以前からあったのですが、新型コロナウイルスの影響で「玄関前で非対面集荷」という新たな需要も加わりました。近く実証実験の結果が出ることになります。
ほかにも、保冷用のOKIPPAができれば食料品も受け取ることができますし、OKIPPAをアパレル会社が自分たちのデザインで、商品として販売することもできます。さらにはクリーニング、レンタルなど、玄関前の空間を基点としたリアルなサービスとも連携できるのではないかと思っています。玄関前の空間の価値を高めていくことで、OKIPPAの普及率も上がっていくのではないでしょうか。
――御社は再配達という社会課題解決とビジネスの両立を目指して起業されたのだと思いますが、今後の事業の展望や新しい物流のあり方についてどう考えていますか。
内山:まずはOKIPPAをインフラとしていきたいと考えています。我々が目指しているインフラというのは、普通の生活の中に当たり前にある商品の在り方です。OKIPPAが玄関先に吊られ、それをベースに使ったサービスやビジネスをどんどん作っていくというのが次の目標になっていきます。
1つ考えているのが、アパレル在庫の衣料品廃棄物問題についてです。例えば、OKIPPAは100%ポリエステルでできているので、EC事業者でもあるアパレル会社が自分たちの廃棄する在庫品を原料にOKIPPAを作り、ユーザーに配る。そうすることは再配達問題の解決に貢献します。でも、実は自分たちの廃棄物問題にコミットしていることにもなるのです。OKIPPAが広く普及すれば、再配達問題は解決します。その後、OKIPPAというインフラを維持していくことで、実は廃棄物問題などの別の課題にもコミットできる仕組みが作れるのではないか。今後はその辺りにも挑戦していきたいと考えています。
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