再配達を約61%減少――物流系ITベンチャー「Yper」が構築した新サービス「OKIPPA」に迫る
インターネット通販の急増やドライバー不足により、宅配サービスの維持が困難となった“宅配クライシス”。その大きな要因は、宅配の約2割を占める“再配達”にあるとみられている。そんな危機的状況をチャンスに変えようと新規参入する企業が多い中、日本郵便と大規模な実証実験を行うなどして、ひときわ注目を集めているのが物流系ITベンチャー「Yper」(イーパー)だ。
「再配達問題の解決はコストではなく、新たな価値を生み出す新規ビジネスになる」。内山智晴代表取締役がそう話す通り、同社は再配達問題を解決に導こうと、これまでにないサービス「OKIPPA」の提供を通じて、新たな物流網を築き始めている。斬新な発想と圧倒的な行動力で物流に革命を起こそうとしているYperを取材した。
低価格なのに宅配ボックスに類似した機能を備える「OKIPPA」
——「OKIPPA」(おきっぱ)とはどのようなサービスですか。
内山:「置き配」(おきはい)バッグと、スマートフォンアプリを活用した新しい物流サービスです。置き配とは、配達時に受取人が不在だった場合、あらかじめ受取人が指定した玄関先や宅配ボックスなどに荷物を置くことで配送を完了させる方法です。OKIPPAは、その置き配と堅牢な宅配ボックスの中間的なサービスとして、簡易の宅配バッグで宅配物を受け取れるサービスです。
要は、段ボールもすっぽり入る大きなバッグ式の宅配ボックスなのです。玄関先のドアノブや郵便受けなどにワイヤーで固定できるようになっていて、バッグのファスナー部分には盗難防止のための南京錠が付いています。配達員はワイヤーを床まで伸ばしてバッグを広げ、荷物を収納。ファスナーを閉じたら南京錠に鍵をかけ、配達を知らせるカードをポストに入れれば配達完了となります。バッグの片付けは、両端を引っ張るだけで帯状に畳めるよう設計されていて簡単です。
自社開発したOKIPPAアプリでは、荷物管理を一括で行えるようになっています。宅配利用者にとって、再配達依頼は事業者によって方法が異なるため面倒に感じるものでしょうが、アプリを使えば、各配送事業者に対する複数の再配達依頼を、単一の方法でまとめて行えます。さらに、事業者問わず、発送から到着までのすべての荷物の追跡を、アプリひとつで確認できます。
——その他に、OKIPPAを利用するメリットはありますか。
内山:日本郵便やヤマト運輸、佐川急便など多くの宅配事業者が宅配ボックスへの配達を行っているのに対し、宅配ボックスの設置がない住宅への置き配、つまり荷物を玄関先にそのまま荷物を置いていくということは原則行われていません。OKIPPAがあれば、家に宅配ボックスがなくても、不在時にバッグに預入してもらえるので、その点は利用者にとって大きなメリットでしょう。さらに、OKIPPAのバックの価格は3,980円と安価。つまり、手軽に宅配ボックスの機能を手に入れられるというわけです。
複雑に利害が絡み合い、一向に解消されない再配達問題
——どういった経緯でOKIPPAは生み出されたのですか。
内山:起業する前は商社勤めで、フランスに海外赴任していた時期がありました。日本の宅配サービスを意識するようになったのは、その海外赴任がきっかけでした。というのも、フランスの宅配サービスは、日本のそれとは驚くほど違っていたからです。
具体的には、日本では荷物は指定時間通りに届けられるのが当たり前ですが、フランスはとてもルーズです。再配達も、フランスの場合不在が続くと、郵便局などの指定場所まで自分で取りに行かないといけなくなります。
海外との比較から、日本の宅配サービスの素晴らしさを知ると同時に、再配達問題という大きな課題を抱えていることを歯がゆく思いました。宅配便の取扱い個数のうち、再配達が2割を占めている。言い換えれば、ドライバーが不足する中、2割も現場の仕事を増やしてしまっているのです。
なぜ、これほど甚大な社会的損失である再配達問題がなかなか解消されないのか。興味がわいて調べてみると、再配達問題には、宅配事業者や通販事業者、消費者、不動産会社などさまざまなステークホルダーの利害が複雑に絡み合っていることがわかりました。
再配達問題をビジネスチャンスに変え、改善へと導く
——複雑に絡み合う利害とは、どういうことでしょうか。
内山:再配達を減らすための対策の1つとして、宅配ボックスの設置推進があります。しかし、宅配ボックスの設置には少なからぬ費用がかかるため、宅配事業者、不動産会社、エンドユーザーともに、自己負担での積極投資を避ける構図になっているのです。
そこで、費用負担がネックなのだとしたら、費用をかけずに再配達を減らす、新たなアイテムを開発すればいいのだと気づきました。そのアイテムとは、牛乳や生協のように玄関先に配達してもらう文化が日本にはあるのだから、やはり玄関先に置き配してもらうための宅配ボックスに代わる何かが適切だろうし、設置スペースを確保できない住宅でも使えるよう、吊り下げるなど地面に設置不要な仕様にもしておくのがベストだと思いました。
そこまで考え、アイデアを形にできないかとインターネットで情報収集を繰り返し、「Shupatto」というエコバッグを見つけました。これはOKIPPAの原点となった商品で、両端を引っ張るだけで簡単に折り畳めるエコバッグです。すぐにShupattoを販売する生活雑貨メーカーのマーナ様に連絡を取り、OKIPPAの開発に協力してもらえるようお願いしました。それから試行錯誤の末、数ヶ月後にOKIPPAが完成しました。
また、再配達問題が解決されないもう1つの理由は、物流業者、不動産業者など各々が問題の解決を前述のように「自己負担=コスト」だと捉えているからだと考えます。そこで私たちは、開発したOKIPPAを持ち、さまざまな企業の新規事業の担当者に会いにいきました。物流関係者、不動産関係者以外へも営業範囲を広げたのは、新規事業としてなんらかの形でOKIPPAを使ってもらいたいと考えてのことです。コストとしての問題解消として捉えるのではなく、ビジネスチャンスと思ってもらえれば、良い反応があると考えたからです。
この方向性は、いくつかの企業に受け入れられました。不動産会社のオープンハウス・アーキテクト様には、契約特典として住宅購入者にOKIPPAを配布してもらい、大手通販サイトFABIA様にはアプリ内にクーポンを掲載いただくなどキャンペーンに協賛してもらっています。今後も販路を拡大し、新たな価値を生み出すべく、さまざまな企業の新規事業でOKIPPAを活用してもらう予定です。そうしてOKIPPAが広まることで、結果的に再配達問題を解決に導ければいいと思っています。
ECサイトヘビーユーザーの再配達率を約61%低下させる
——昨年7月と12月には実証実験が行われましたね。OKIPPAのどのような効果が実証されましたか。
内山:7月から8月にかけて自社で行った実証実験は、東京都23区の100世帯を対象としました。参加者の約60%が週1回以上ECサイトで買い物をするヘビーユーザーで、OKIPPA利用前の再配達率は59.2%と非常に高いものでした。ところが実験でOKIPPAを利用してもらうと、再配達率は15.9%にまで下がりました。約43%減の達成です。盗難などのトラブルはなく、参加者の98%から「荷物の待ち時間が減ったことを実感した」との回答を得ました。
良好な結果だと評価するとともに、課題の発見もありました。15.9%再配達が残ったわけですが、その原因は、配送員がOKIPPAの使い方を知らず、バッグに預入できなかったこと。また、複数個の荷物が別々のタイミングで届けられ、OKIPPA に2個目以降の荷物を収納できなかったことでした。これらの課題をクリアできれば再配達率はもっと下がるので、そう努めたいと思います。
一方、12月の実証実験は、日本郵便様と共同で行いました。共同での実施となったのは、日本郵便とサムライインキュベートのオープンイノベーションプログラム「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」への応募がきっかけでした。残念ながらプログラムの採択企業には選ばれませんでしたが、「実験しよう」とお声がけいただいたのです。
この実験は、杉並区の1,000世帯が対象でした。1地域で1,000世帯というのは、かつてない規模だったと思います。実証実験期間中の参加者の不在率は51%と非常に高かったのですが、再配達は61%減少しました。また、配送員へのアンケートでは、OKIPPAを実際に利用した配送員の94%がお客様にOKIPPAを利用してほしいと回答しました。期間中、盗難などもありませんでした。
7月の実験では受取人の利便性の向上が、12月の実験では配送員の負担軽減が確認されました。OKIPPAが両者にとっていいものであるかぎり、このサービスは物流の課題を改善に導くはずですし、再配達率の大幅な削減も実証され、大きな手応えを感じました。
Yperが真に取り組むのは新しい物流の仕組みづくり
——ところで、アプリを自社開発されたということでしたが、社長以外の社員5人全員がITエンジニアと聞いています。OKIPPAのバッグの販売だけで収益を上げているのではないですよね。
内山:収益のことは今後の目標で、いまは仕組みづくりをしている段階だといえます。OKIPPAバッグはほぼ原価で提供しているので、販売から得られる利益はないに等しいです。では、どこで収益を上げたいかというと、1つはアプリです。
OKIPPAのアプリは、再配達依頼など利用者にとって便利な機能が盛りだくさんで、月1回以上起動する人の割合は50%以上と非常に高いのが特徴です。このように利用頻度が高いアプリは広告媒体になり得ます。
例えば、OKIPPAユーザーに対し、OKIPPA利用に賛同するアパレル会社の商品購買を促すキャンペーンをアプリ内で行う。あるいは、友達紹介で商品が割引になるクーポンを発行するなどして、広告収入を得たいと考えています。
もう1つは、OKIPPAを新たな宅配インフラとして利用手数料をもらう方法です。荷物の「コンビニ受け取り」は、配送会社がコンビニに対し取次手数料を支払うことで成り立っています。大元のEC事業者がわざわざ手数料が加算された配送方法を選択するのは、荷物の受け取り方の選択肢を広げて自社ユーザーの利便性を向上させ、サイトの売上を伸ばしたいと考えているからです。
OKIPPAも新しい物流インフラとして、コンビニ受け取りと同様の扱いを受けられるよう成長させたいと思っています。というのも、OKIPPAの利用で多くの再配達が防げるようになれば、ドライバーの配送効率が上がり、この先見込まれる配送料の値上げを緩やかにできるかもしれません。そのように確かな価値をOKIPPAが生み出せば、将来的に手数料を得られる可能性があると見ています。
2018年9月の販売開始以降、OKIPPAの販売総数は約6,000個に達しました。販売は好調ですが、利用手数料をもらうにしても、またアプリを広告媒体として活用するにしても、まだまだ利用者数を増やす必要があるでしょう。
昨年行った2度の実証実験から、OKIPPAは再配達問題を解決に導いてくれると手応えを感じました。そんな未来を実現させるためにも、OKIPPAが多くの人や企業にとって役立つものになるようサービスを一層洗練させ、広めていきたいと思っています。