オプティマインドが目指す、世界の最適化ーー大学発ベンチャーが物流危機に挑む!

	大学発ベンチャーが物流危機に挑む! オプティマインドが目指す、世界の最適化
取材・文:相澤良晃、写真:井上秀兵

宅配システムが崩壊の危機にある――。インターネット通販の急速な拡大により、2007年度に約32億個だった「宅配便取扱個数」は、2017年度には42億個と、ここ10年で10億個も増加した(国土交通省調べ)。「2020年代には60億個を超える」と予測する専門家もいる。 その一方でドライバー不足は深刻化しており、2027年には、日本全体で24万人のトラックドライバーが不足するという分析もある(ボストンコンサルティンググループ調べ)。 2015年に創業した名古屋大学発のテックベンチャー・株式会社オプティマインドでは、「組合せ最適化」研究の成果を社会に実装することで、この「物流崩壊」を解決しようと目論んでいる。オプティマインド代表取締役の松下 健氏(写真右)と、その要であるサービス「Loogia(ルージア)」開発に携わった松原ヒュー氏(写真左)に話を聞いた。

属人的な物流をアルゴリズムで最適化

――オプティマインドが提供する「Loogia(ルージア)」とは、いったいどのようなサービスですか?

松下:おもに宅配便や宅食などのラストワンマイルの配送業者向けの物流最適化クラウドサービスです。「配送先の緯度・経度」「配送時刻」「配送先での予想作業時間」「荷量」などの必要な情報をエクセルファイルに書き込んでアップロードすれば、AIが自動計算し、もっとも効率よく配送できるルートを瞬時に導き出します。

インタビューに答える松下氏
株式会社オプティマインド 代表取締役の松下 健氏

松下:2018年9月からサービスを開始し、現在、試験導入いただいているのは10数社ほど。宅配業者のほか、自動販売機の商品補充、酒販、医薬品輸送、電線メンテナンスなど、さまざまな分野の会社に利用いただいています。

ルージアの地図画面
ルージアの地図画面。複数のトラックの最適なルートを瞬時に導き出して表示する

――そもそも現役の大学院生でありながら、なぜ「最適化ビジネス」にチャレンジしようと考えたのですか。

松下:研究成果を、早く実社会に還元したいと思ったからです。とくに経営者になりたかったわけではありません。

名古屋大学情報文化学部に入学して間もなく、柳浦睦憲(やぎうらむつのり)教授の「最適化アルゴリズム」の授業を受けました。たとえば、「片道切符でどこからどこまで最長で移動できるか?」など、特定の条件下で最善の解決方法を見つけるのが「最適化問題」です。そして、その最適化問題の解法をプログラミングによって設定し、コンピュータに回答を導き出してもらうのが「最適化アルゴリズム」という学問です。

それまで受験勉強しかしてこなかった私にとって、最適化アルゴリズムは「はじめて実社会に役立つ勉強をしている」という感動が得られた、とても面白い学術分野でした。とりわけ興味をもったのは、「もっとも隙間なくコンテナを船に積み込むには?」「看護師全員の希望をなるべく反映した勤務表をつくるには?」など、「組み合わせ問題」の最適化アルゴリズムの構築です。その研究に打ち込んでいくうちに、研究成果を一刻も早く実社会で使ってもらいたいという気持ちが強くなっていきました。

それで大学4年生の頃、研究仲間と一緒に、配送業、製造業、農業など、さまざまな業種の企業に出向き、「御社で困っていることを最適化で解決します」と提案してまわったのですが、学生ということで門前払いされることもありました。それで、どうにか自分たちの話に耳を傾けてもらいたい、企業にパートナーとして認識してもらいたい、という思いで2015年に立ち上げたのがオプティマインドです。

オプティマインドは名古屋大学オープンイノベーション拠点を本社所在地としている
オプティマインドは、名古屋駅に隣接するJRゲートタワーの27階、名古屋大学オープンイノベーション拠点を本社所在地としている

――そのなかでも「物流」を選んだのはなぜですか?

松下:さまざまな業界の経営者にお会いするなかで、物流業界がもっとも属人的であり、コンピューターシステムの入り込む余地が大きいと感じたからです。それにちょうどその頃は、Amazonをはじめとするインターネット通販の需要増加にともない、小口の配送件数が爆発的に増加したことで「物流危機」が問題になりはじめた時期でもありました。

もちろん、学生のスタートアップが既存の物流システムに割って入るのは一筋縄ではいかないと思いましたが、その分やりがいも大きいと感じて物流業界に最適化サービスを提供することに決めたのです。

しかし、予想通り創業後1~2年は、配送業者などに最適化の話をもちかけてもまったく相手にされませんでした。仕方なく一般的なシステムの受託開発を行うなどして売り上げを確保し、ようやく資金に余裕が出てきた2017年秋頃から、それまで構想をあたためていた「Loogia」の開発に着手したというわけです。

カギとなるのは「走行データ」の収集

――開発にあたり、参考にした既存のサービスはありますか?

松下:いえ、とくにはありません。たしかに、大手メーカーなどは、物流最適化サービスをすでに提供していましたが、それらはおもに幹線輸送向けのサービスです。弊社は、そのようなターミナル間の大量輸送の最適化ではなく、「ラストワンマイルの配送の最適化」をめざすことで差別化を図りました。

松原:また、「Loogia」は道路ネットワーク地図データを独自で整備しており、配送現場における多様なデータ蓄積により、最適化の精度が高まっていくことも特徴です。たとえば、「配送先のマンションの入り口の位置」「道幅」「渋滞しやすい時刻」などの情報を走行データから集め、地図上に蓄積していくことで、距離だけでなくさまざまな要因を加味した「より現実的な最適ルート」を提案できるようになります。

松原ヒュー氏
「Loogia」開発の中心メンバーのひとりである松原ヒュー氏。トロント大学でコンピューターサイエンスと統計を学んだのち卒業後,オプティマインド参画

――他社サービスと差別化できるポイントは?

松下:弊社は名古屋大発のベンチャー企業として、最適化アルゴリズムを専門とする柳浦教授に技術顧問として参画してもらっています。さらに、大学の研究室でも実績が証明されている世界トップレベルの最適化エンジンを複数所有していることも強みです。名古屋大学大学院の博士課程在籍者をはじめ、個性豊かな人材が集まっている点も大きな魅力だと思います。

現在、在籍するスタッフ15名の平均年齢は28歳前後。若く、勢いのあるスタッフたちのおかげで、約1年という短い開発期間で「Loogia」を完成させ、リリ-スすることができました。

――実際に、どのくらいの効果が期待できますか?

松原:2017年から日本郵便と共同で行っている実証実験では、たとえば1台の配送車で約30カ所に配送する場合、それまで44分かかっていたルート作成時間がわずか6分に短縮されました。さらに実配送時間は57分から45分に減り、合計50分の短縮です。

また、酒販会社のケースでは、実配送時間が約7時間から6時間30分に短縮されました。宅配業界では、「おおよそ6分で1つの荷物を配送できる」とされているので、削減された30分でさらに5件分の荷物を配送できる計算になります。

――リリースから数か月が経ちましたが、課題は見つかっていますか?

松原:やはり、いかに多くの走行データを集められるかがカギになります。先ほどもお話したとおり、「Loogia」はデータが集まれば集まるほど、より効率化の精度が高まっていくシステムです。

松下:その解決策のひとつとして、2018年9月には東京海上日動火災保険と業務提携を結びました。同社が取りあつかうドライブレコーダーと「Loogia」のデータを連動させるわけですが、それにより20万台程度の走行データが手に入ります。

さらに、同社の持つ交通事故の情報を共有させてもらえれば、事故渋滞を回避するルートを導き出すことができるようになる可能性もある。現時点では事故のほか、コンサートなどのイベントが原因で発生する突発的な渋滞は予測することはできませんが、今後もさまざまな業種の企業と連携をはかることで、そうした渋滞の回避も可能にしたいと思います。より実社会に則した最適化システムへと進化させていきます。

また、ビッグデータを収集するために、「トラック1000台以上保有」「年商数千億」というような大手企業に積極的に売り込みをかけているところです。配送業界はピラミッド構造をしており、下請け、孫請けの配送業者が勝手に配送時間やシステムを変更することはできません。元請け会社の指示に従わざるをえないわけですが、それは逆に言えば、ピラミッドの頂点に立つ会社に「Loogia」を導入してもらうことができれば、トップダウンにより下請けの多くの会社にも導入してもらえるということです。

2019年1月からは、新たに製菓大手のブルボンと自動販売機の配送ルートについて実証実験をスタートしました。ブルボンの自動販売機「プチモール」から収集する商品の販売データをもとに、もっとも効率的な配車や通過ルートを提案します。「Loogia」の有用性を確認し、システムの改善をはかる絶好の機会が得られたと思います。

サプライチェーンに携わるすべての会社が連携すべき

――現在、日本の配送業界がどのような局面を迎えているか、あらためて考えを聞かせてください。

松下:大きな転換期を迎えていることは間違いありません。大手企業によるM&Aが進み、再編が起きている。10年後にはさらに淘汰が進み、たとえばAmazonのような超グローバル企業1社が物流すべてを取り仕切り、配送業務を各社に振り分けるという状況が訪れる可能性もある。ただ、一方で新たな物流サービスを提供するベンチャー企業もたくさん誕生しています。

たとえば、クラウド型の発送サービスを提供するスタークス株式会社、物流デジタル情報プラットフォーム「MOVO(ムーボ)」を運営する株式会社Hacobu、軽貨物の配送に特化したマッチングサービス「PickGo(ピックゴー)」を提供するCBcloud株式会社、スマホでカギを開け閉めできる預かりボックスを開発した株式会社SPACER(スペースアール)など。

そうした物流ベンチャーの経営者同士で集まって勉強会を開いているのですが、そこでよく話すのは、「物流の問題は、我々みんなで協力して考えないと解決できない」ということです。役割が異なるさまざまな会社が協力して、1つのサプライチェーンの仕組みをつくりあげることが理想だと思います。

名古屋市街
本社からは名古屋市内を一望できる。松下氏は、「名古屋にもたくさんいいベンチャー企業があるので、そのこともPRして、名古屋全体を盛り上げていきたい」と話す

――最後に、今後の目標について教えてください。

松下:現時点では、宅配や配送など「物流」の最適化に力を入れていますが、いずれはバスや乗り合いタクシー、ライドシェアなど、「人の輸送」の最適化にも取り組んでいきたい。近い将来、AIによる自動配車も可能になると思いますし、自動運転技術との親和性も高いはずです。

「人」と「物」。究極的にはこの2つのすべての流れを最適化することで、都市のすべてを 最大限にスマート化し、便利にしたい。「最適化」が当たり前の世の中にして、弊社のサービスを「インフラ」と呼ばれるまでに成長させたいですね。

また、海外にも進出してみたいという気持ちもあります。とくに、国土が狭く、道路事情が日本と似ている東南アジア諸国では、最適化システムの活躍の機会は大いにあると思います。世界中のラストワンマイルの移動を最適化することが、最終目標ですね。