「現場センシングソリューション」でニューノーマルのサプライチェーンを支えるパナソニック

「現場センシングソリューション」でニューノーマルのサプライチェーンを支えるパナソニック
取材・文:相澤良晃

新型コロナウイルスは、すべての企業に「感染防止」という新たな課題を突きつけた。「人手不足」「生産性の向上」「業務効率化」など、既存の課題を解決するとともに、感染防止にも貢献できると期待されているのが、「センシング技術」(情報を計測・数値化する技術)である。ニューノーマル時代のサプライチェーンで、いま何が起きているのか、なにが求められているのか、長年「センシング技術」を培ってきたパナソニックの、辻 敦宏氏と古田 邦夫氏の2人に話を伺った。

辻 敦宏(つじ あつひろ)

パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社
イノベーションセンター 共創イノベーション研究部 部長
1996年に入社後、本社R&D部門にて、放送機器向け通信プロトコルの開発、家電等に搭載するIPv4/IPv6通信ソフトウェアの開発、デジタルテレビのネットワーク対応開発に従事。2007年からデジタルテレビのLSI開発(通信対応)、TVにおけるVoDサービスのミドルウェア開発(通信、著作権保護など)とアプリ開発、医学系画像提供サービスなどの新規事業開発に従事。2013年より3年間、本社にて経営企画を担当、AVC社(現CNS社)CTO室にてカンパニー技術戦略策定と技術開発企画・技術行政を担当(室長)後、2020年4月より現職にて社会・業界変革の共創研究・技術企画を担当。

古田 邦夫(ふるた くにお)

パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社
パブリックシステム事業本部 システム開発本部ビジネスデザイン室 室長
1992年に入社後、14年間ソフトウェア技術者PLとして当時最先端のVRや音楽・映像配信システムの開発を担当。その後10年間、技術企画・商品企画・経営企画を経て、技術・企画の両面での知見を活かし2017年よりイノベーションセンターでビジネスプロデュースを担当。2020年4月より事業前線化のためパナソニック システムソリューションズジャパンにて現職に従事。

「コロナ禍」によりサプライチェーンの課題が浮き彫りになった

――コロナ禍において、製造や物流、小売といったサプライチェーンにまつわる業界で、いま何が課題となり、どのような変化が求められているのでしょうか。

辻:まず製造業から聞こえてくるのは、「感染対策のため、現場に行けない」という声です。製造業界では以前から「人手不足」「自動化」が深刻な問題になっていましたが、今回のコロナ禍であらためてそれが浮き彫りになりました。人と人との接触を最小限に留めつつ、生産性を上げる。製造現場ではこれまで以上に自動化・効率化のソリューションへのニーズが高まっています。

パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社 イノベーションセンター 共創イノベーション研究部部長 辻 敦宏氏
パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社 イノベーションセンター 共創イノベーション研究部部長 辻 敦宏氏

辻:一方、配送などの物流業界では、いかに複雑なオペレーションを簡略化でできるかが課題です。多くの人が外出や外食を控えるようになったことで、宅配便の利用者が急増しました。それにともない、物流の現場で働いている人の負担が大きくなっています。そのうえ、「三密回避」「非接触」などの新型コロナウイルスの感染防止対策も講じなければいけません。

また、流通業界においては、現場スタッフの負担軽減、商品の安定供給、感染拡大防止などといった課題があります。その解決策として、カギとなるのがEコマースをはじめとしたデジタルなサービスです。コロナ以前から言われていた「デジタルをリアルな店舗にどう融合させていくか」など、ニューノーマル時代に合わせた検討が進められています。

パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社 パブリックシステム事業本部 システム開発本部ビジネスデザイン室室長 古田 邦夫氏
パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社 パブリックシステム事業本部 システム開発本部ビジネスデザイン室室長 古田 邦夫氏

古田:小売業に関していえば、新型コロナウイルス流行の第1波を「人海戦術」でどうにか乗り切ったという印象があります。たとえば、店頭で検温をしたり、体調に関するアンケ―トを取ったりと、店舗業務が以前よりも確実に増えたなかで、従業員の数や作業量でカバーしているように思えます。第2波、第3波に備え、そうした業務をいかに自動化・省人化できるかがカギになってくると感じます。

そして何より大切なのは、お客さまが安心して足を運べる店舗づくりです。万が一、お客さまや従業員から新型コロナウイルスの陽性者が出た場合に、迅速にケアするためのトレーサビリティを確保する必要もあります。そこでパナソニックがこれまで培ってきた技術を活かして、ニューノーマル時代の店舗運営のサポートをしていきたいと思います。

「非接触」のソリューションへの注目が高まる

――コロナ禍において、どんなシステムやサービスの需要が高まっているのでしょうか。

辻:感染防止の観点から、「非接触」のソリューションのニーズが増えています。その背景には5月に厚生労働省より発表された「新しい生活様式」があります。そのなかで実践例としてEC決済の利用促進や対人の接触回避等が推奨されています。それにより、人々の意識・購買行動も変化し、買い物時の感染対策は店舗価値の差別化につながってきています。

指紋認証や静脈認証などは普及し始めていましたが、どちらも現在は非接触ではありません。また、音声認証は非接触ですが飛沫による感染が懸念されます。そこで、新しい生活様式に対応した環境づくりをするためにも「顔認証」のニーズが高まると考えています。さらに基本的にカメラさえあれば導入できるという手軽さも「顔認証」の魅力です。

――「非接触」のソリューションには具体的にどのようなものがありますか。

古田: 2019年4月からパナソニックはコンビニ大手のファミリーマート様と共同で、非接触技術を駆使した実証実験店舗を進めています。顔認証決済を導入しているので、顔写真を登録してあれば財布を持たずに入店しても、画像センシング技術により個人を判別して決済ができます。決済時にレジを通る必要もなく、会計エリアに商品を持ち込めば画像認証で自動的にそれぞれの商品が識別され、金額が提示されます。

パナソニックとファミリーマートが共同で進めている非接触技術を駆使した実証実験店舗の様子
パナソニックとファミリーマートが共同で進めている非接触技術を駆使した実証実験店舗の様子(※現在、顔認証決済はパナソニック社員限定で実施しています)

古田: 新型コロナウイルスの流行によって、これらの非接触・対面レスの決済システムのニーズが一気に高まったと感じています。コロナ以前から知見を貯めていた強みを活かして、早期の実用化に向け、検証・改善を加速させていきたいと思います。

家電で培った「非接触」技術とUX

――パナソニックの「顔認証」の技術について教えて下さい。

辻:実を言えば、顔認証に限らず「非接触」はコロナ以前からパナソニックが研究・開発に力を入れてきたテーマです。というのも、パナソニックはテレビや照明、携帯電話、映像機器などの家電製品の開発を通して「光」や「無線」「音声」「映像処理」といった各種技術を磨いてきました。「非接触」はこれらの技術基盤の上に成り立つもので、私たちが得意とするテーマです。

パナソニックの歴史
1981年から「画像センシング」技術を研究し、1990年中頃からは監視カメラの製造に取り組む。近年は、「画像×AI」で行動分析や省人化・効率化など現場の課題解決を目指している。

――製造、物流、流通などのサプライチェーン以外でも画像センシング技術の活用は進んでいるのでしょうか。

辻:はい。たとえば、パナソニックが開発した「顔認証ゲート」は、全国7か所の空港で運用されています。事前登録は不要で、パスポートのICチップ内の顔画像と、「顔認証ゲート」で撮影した本人顔画像との照合により本人確認を行うことが可能となり、スムーズな出帰国手続に貢献しています。

空港で使われているパナソニックの顔認証ゲート
空港で使われているパナソニックの顔認証ゲート。ユーザビリティの追求から生まれた「初めての人・高齢の人でも使いやすいゲート装置」は2017年グッドデザイン賞受賞。

古田:2018年からは絶叫マシンで有名なテーマパーク「富士急ハイランド」様でもパナソニックの顔認証システムが使われています。入園ゲートで顔写真を撮影して登録すると、各アトラクションを顔パスで利用できるというものです。オンラインで事前に顔写真を登録しておけば、入園もスムーズになります。

顔認証APIサービスの提供を開始

――新しい生活様式を踏まえて、なにか取り組んでいることはありますか。

古田: 2020年3月から、パナソニック コネクティッドソリューションズ社の東京本社ビルで「顔認証 入退セキュリティ&オフィス可視化システムKPAS(ケイパス)」を導入しました。約8000名の社員証の画像を活用し、認証精度を継続的に検証・改善に努めています。

KPASの特徴
「KPAS」の認証にかかる時間は1秒程度。メガネやマスクをしていても高精度の認証が可能。イベントの入退管理では、カメラと連動し「密」を検知するなど会場内の人数コントロールにも活用されているという。

辻:また、東京駅直結の会員型コワーキングスペース「point 0 marunouchi(ポイントゼロ マルノウチ)」でもKPASの実証実験を進めています。この施設では、「位置情報システムLPS(Local Positioning System)」と連携することで、オフィス内のどこに誰がいるかをスマホで確認できるアプリの提供も開始されました。

これを使えば、在館者の人数を確認してから出社することができます。このように、単に入退を管理するだけでなく、勤怠管理や位置情報などのシステムと連携するとことで、業務効率化にもつなげられるのが「KPAS」の特徴です。

古田:パナソニックではこれらの顔認証技術をAPIサービスとしても提供しています。お客様は、スマートフォンやWebサイト、入退管理システムなどにパナソニックが培った顔認証技術を組み込むことができます。興味のある方はぜひ資料をダウンロードしてみてください。

顔認証APIの資料ダウンロードはこちら

顔認証 APIサービスについてはこちら

辻:パナソニックでは、これまで培ってきた技術をクラウド経由でご利用いただける形で提供することで、より広くのお客様に使っていただき、「共創」を進めていきたいと考えています。ここまでご紹介してきたさまざまなセンシング技術や共創の実績・ノウハウ、そして、家電で培った人に優しいデザイン力を、「現場センシングソリューション」として提供しています。

現場センシングソリューション動画

人に寄り添う「現場センシングソリューション」

――最後に、今後どのようなことに取り組んでいきたいのか、お二人の意気込みを聞かせてください。

辻:今回の新型コロナウイルスの影響によって、私たちの行動様式や価値観は大きく変わりました。もしワクチンができて感染拡大が止まったとしても、以前の社会に完全に元に戻ることは考えにくいです。

そのため、製造業・物流業では、人と人との接触を最小限に留めつつ、生産性を上げていくこと、小売業ではデジタルなサービスの拡充がより一層求められていくなかで、「非接触」「センシング技術」へのニーズは、今後さらに高まっていくことでしょう。

人に寄り添う「現場センシングソリューション」

辻:そうした状況を踏まえつつ、パナソニックがこれまで家電事業などで培ってきた技術を基盤として、人に寄り添ったソリューションを開発、提供していきたいと思います。目下、光や音、電波を駆使して、これまでデジタル化できなかったものを数値化し、センシングする技術開発なども進めています。

たとえば「光」には、普段人間が見えている可視光以外にも紫外線や赤外線があります。赤外線を利用することで物体に含まれる水分量を検知することが可能です。この技術を応用すれば、皮膚や体内の状態を非接触で分析できるようになるかもしれません。

また、人間には聞き取れない周波数の「音」をセンシングすることで、物体や機械の異常を検知することもできそうですし、「無線」技術を応用することで、モノや人が空間のどこに位置しているのかを瞬時に把握することもできることがわかってきました。AIや5Gなどの技術も使いながら、こうしたアイデアを実現していきたいと思います。

古田:ニューノーマル時代に生き残っていけるのは、世の中の風向きをしっかりと見極め、素早く対応できるアジリティ(Agility)のある会社だと思います。我々、パナソニックはお客さまとコミュニケーションを取りながら、現場の困りごとをスピーディーに解決するためのお手伝いをしていきます。

辻:経営者の方やともに働く社員の方々、そしてその企業のサービスを利用する消費者の全員がハッピーになるような社会、世界にしていきたいですね。パナソニックが掲げるブランドスローガン「A Better Life, A Better World」を実現するために、今後も「現場センシングソリューション」を押し進めていきます。ご期待ください。

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