PT-RQ50KJ
開発者インタビュー
Voice of Developers
Vol.1 私たちの使命
開発のコンセプトは、“業界に革命を起こす、世界最小最軽量の50,000 lmプロジェクター”
エンターテインメント市場における映像を用いた空間演出の方法は変化し、また規模も拡大しています。この市場で、パナソニックのプロジェクターに求められるのは、より明るく高精細な映像表示だと考えました。
プロジェクターの良さは、どんな被写体も映像にしてしまえることと、台数を増やすことで無限に規模を大きくできることです。一方で、プロジェクターが増えれば増えるほど、周辺機材・ケーブル、そして設置するための時間が比例して増加するため、設営現場のワークフローが課題となっていました。
没入感のある大規模な空間を創るにはできる限り高輝度のプロジェクターが必要になりますが、開発を始めた時点で50,000 lmを超えるプロジェクターは業界にはあるものの、非常に大きく重く、筐体が複数に分かれた商品しかない状況でした。これでは高輝度のプロジェクターを使うことでいくらトータル台数を減らせたとしても、お客様のニーズを満たしているとはいえません。
そこで私たちは、設置現場のワークフローを1/2にするべく、従来のモデルとほぼ同じ大きさで約2倍の明るさが出せるプロジェクターを目指して、このPT-RQ50KJの開発に着手致しました。
世界最小・最軽量のプロジェクターは設置現場への想いから始まった製品なんですね。次は、PT-RQ50KJの画質がなぜこんなに高い評価を得ているのかを探ります!
Vol.2 画質の追求
プロジェクションマッピングで映えるような「赤」を追い求めました。
50,000 lmの明るさのプロジェクターが一番活躍する場面は、建物や城、スタジアムのグラウンドなど巨大なものへのプロジェクションマッピングです。そこに求められる画質とは何かを自問自答しました。
これまで以上に大きくて明るい画像を投写するためには、ただ単に明るいだけでは不十分。もっと、お客様に感動してもらえる世界最高の映像をお届けするにはどうすればいいのか。プロジェクションマッピングでは、映像は真っ白なスクリーンではなくさまざまな素材に投写します。素材によっては光を吸収したり反射を起こしますし、周辺の光が入ったりすると本来表現したい色や明るさが得られない場合も多くあります。
コンテンツの作り手の意図した色や明るさを忠実に力強く表現するためには、特に鮮やかな「赤」を追求する必要がある。赤色レーザーを使えば広い色域を実現できるのでは、と解決策を見出しました。
「パワフルな赤」× 長年の「肌の色」へのこだわり
しかし、単純に広い色域にしただけだと、今までこだわってきた人肌やフルーツなどの繊細な色のバランスが崩れ不自然に見えてしまった。すぐに次の問題にぶつかってしまったのです。そこで、色を自在にコントロールできる新開発の3次元カラーマネージメントシステム(3D-Color Management System)を使用し、赤色レーザーの色を使いこなす事から始めました。何百枚もの画像と何百もの色をチェックし、ようやく満足できる自然な画像とインパクトのある画像の両方の絵作りができるようになりました。
求めたのはプロジェクションマッピングで映えるようなインパクトのある「赤」だけでなく、人肌など自然な色にもこだわった画質だったのですね。
Vol.3 赤色レーザーとの闘い
PT-RQ50KJの美しさは「赤」に秘密があったということがわかりましたね!赤色の秘密について、より深い話を聞きに行きます!
多数の赤色レーザーを追加しながらも、コンパクトなプロジェクターをお客様に届けたい。画質、サイズ、信頼性の3つのすべてを満たす光源デザインを見つけるのに試行錯誤を繰り返しました。
パナソニックプロジェクターが赤色レーザーを搭載するのはこれが初めてですが、何か問題はありましたか?
第一に、赤レーザーは青レーザーと比較して出力が低いため、青レーザーと同等の明るさを出すには数多くのレーザーを搭載する必要があります。これは単純に筐体の大きさにつながります。次に、赤レーザーは、レーザーモジュールの温度が変化すると出力が大きく変化するという特性を持っているため、表示画像の明るさが安定しないという最大の課題がありました。
温度に敏感な赤レーザーを制御するために、ペルチェ素子という半導体デバイスを利用し、フルデジタル制御で一定温度になるように制御しましたが、高温多湿な環境では製品内部に結露が発生してしまう。これを抑制するためにはペルチェ素子の制御方法や構造設計を見直さなければならず、大変苦労しました。
コンパクト性を保ちながらも美しい赤を表現できるPT-RQ50KJを、お客様に届けるためには多くの苦労があったのですね。次回は、50,000 lmもの超高輝度を出す光学エンジン開発の秘密についてインタビューします!
Vol.4 光学エンジンの開発
さまざまな材料を用いていくつもの試作を行い、ついに超高輝度50,000 lmに耐える光学エンジンを開発しました。
従来のプロジェクターから大幅に明るさをアップした今回のプロジェクターでは、プロジェクター内部の光学エンジンの温度もアップします。光学エンジンの構成部品であるプリズムやレンズは温度により膨張や歪みが発生します。かつてない高温にさらされた結果、投写映像のフォーカスがずれて画質が低下する、最悪の場合内部にあるレンズが割れる、というような不具合が起きます。50,000 lmのプロジェクターを開発するために、構成部品一つ一つに対し素材から見直しを行い光学系の再設計を行いました。
光学系の再設計を行うことで、得られたものはあったのでしょうか。
はい。例えばプリズムは歪みのない素材で再設計を行うことでフォーカスが良くなりましたし、耐熱性に優れた素材でレンズの再設計を行ったことで、これまで以上に光学エンジン全体の信頼性を向上させることができました。お客様に安心して使用いただける理想のプロジェクターに近づいたと思います。
ありがとうございました。光学エンジン開発の秘話いかがだったでしょうか?次回は、50,000 lmながらコンパクト性も実現した秘密について聞きにいきます。
Vol.5 コンパクトサイズへの思い
PT-RQ50KJの秘密も残り2話となりました。赤レーザーを搭載した超高輝度50,000 lmでありながら、どのようにしてコンパクト性をつらぬくことができたのでしょうか。その秘密に迫ります。
このサイズを実現できたのは、1 mmでも小さくというハード設計担当者一人ひとりの想いと地道なダウンサイジングへの挑戦の積み重ねによるものでした。
その挑戦の中でPT-RQ50KJを現行機種と同じ設置面積におさめることに大きく寄与したのは、液冷モジュールに使用しているラジエータを大幅に小型化できたことです。
新しく開発したラジエータでは、冷却水の通り道を微細加工技術で極限にまで薄くしました。それによって、限られたスペースに通せる冷却水の通り道の数を増やすことができ、放熱性能を維持したまま小型化することができました。しかし、従来の設置面積におさめるには奥行方向であと11 cm短くしないといけませんでした。
11 cmも短くするということは、設計の大幅な変更もあったのではないですか?
はい、設計(試作の)最終段階で、全体のほぼ半分にあたる部品の設計を見直し、レイアウトすべてを最初からやりなおしました。すべてはお客様に少しでも小さなサイズで届けたいという開発者全員の想いからです。
お客様が求める色の再現性の追求とともに、コンパクト性への強いこだわりを感じました。多くの苦労と葛藤があったのですね。ありがとうございました。
Vol.6 振り返って
信じられないほど短い1年という開発期間の中、全てが新規のモデル開発という厳しいハードルを、開発着手段階から関連部門一体となって克服
PT-RQ50KJは、電気回路・ソフトウェア・光学システム・投写レンズ・機構・メカニカルに至るまですべてを新たに設計しました。それをわずか1年でやり遂げなければならなかったので、非常に苦労しました。
50,000lmにもなる超高輝度プロジェクターは、レンタル、ステージング事業やテーマパークに関わっている企業がメインのお客様です。お客様が必要なシーズンに間に合わせるという目標があったので、開発期間は非常にタイトでしたが、開発・設計・工場・品質保証の各部門が集まって同じ目標を共有し、素晴らしいチームワークと情熱をもって、多くの課題を克服することができました。
コンパクトな筐体に赤レーザーを組み込み、プロジェクションマッピングで映える「赤」を追求した本モデルは、従来とほぼ同じ筐体で明るさ2倍という目標を達成し完成させることができたのです。
このPT-RQ50KJであれば、現場で重機を使わず4人で運搬・設置ができる軽量・コンパクトさは設置施工時間の短縮につながりますし、運搬コストや保管・管理スペースも大幅に減らせます。従来とほぼ同じ設置スペースで明るさを2倍にすることができますから、映像の演出性も格段に上がると見込んでいます。
お客様の演出力と私たちの商品との掛け算で、これまでにない演出が増え、演出をご覧になった方々を元気にすることができたら幸いです。
たくさんの人の強い思いがつながってできたPT-RQ50KJ。今後、プロジェクションマッピング等で活躍する姿に注目していきたいと思います。ありがとうございました!