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慶應大の國領氏「iPhoneのマイナンバーカード対応はチャンス」
本人確認が“競争力”になる日

慶應大の國領氏「iPhoneのマイナンバーカード対応はチャンス」 本人確認が“競争力”になる日

本人確認──それは長年、企業にとって「必要だが収益を生まないコスト」として扱われてきた。だが、iPhoneへのマイナンバーカード追加という転機を迎えた今、本人確認は「競争力を左右する要素」へと変貌しつつある。この変化を企業はどう捉え、何を準備すべきなのか。慶應義塾大学 名誉教授の國領 二郎氏とパナソニックコネクトの対談が、その答えの糸口を示す。


本人確認を取り巻く変化と企業が直面する課題

──オンラインで本人確認を求められるケースが増えているように感じます。本人確認を取り巻く環境は、どのように変化してきているとお考えでしょうか。

慶應義塾大学名誉教授 國領 二郎氏(以下、國領氏):オンラインで言えば、もともとインターネットは、人間の認証をきちんと考えて作られていません。IPアドレスは機械に割り当てられますが、「それを使っている人間が誰なのか」という前提は弱かった。それをこれまでは、IDとパスワード、境界防御といった考え方で何とかしてきましたが、もう持たなくなっています。

そしてコロナ禍を経て、内と外の境界はより曖昧になりました。以前は境界で守って内部を安全にするという発想でしたが、それが役に立たなくなり、実際に深刻なインシデントも起きています。人間の認証だけでなく、デバイス認証も改めて問題になっているのです。

──一方で、対面・オフラインでの本人確認も残り続けています。こちらについてはいかがですか。

パナソニックコネクト 津村 賢一氏(以下、津村氏):オンラインでのeKYC(電子本人確認)は少しずつ普及していますが、対面の本人確認は未だに人が行っているケースが多く、法規制の問題なども絡み合って、自動化やデジタル化は遅れているのが現状です。

企業側としては、確認精度が担当者の経験に左右されやすく、偽造書類を見抜くことが難しいといった運用・セキュリティ面の課題や、人件費やピーク時対応といったコスト・生産性の問題があります。また利用するお客さまにとっても、手間や待ち時間が多く、双方にとって課題が多く残っているという印象です。

「パスワード疲れ」から「スマホ1つ」へ──変わる本人確認のユーザー体験

──ユーザーの体験という観点でも、本人確認を見直す必要があるということですね。

以下、國領氏:本人確認は、以前に比べるとだいぶ楽にはなっています。ただ、パスワードは覚えきれないので、どうしても適当に付けがちですし、破られてしまうこともある。誰かに預けてしまうのも問題がありますし、企業側にログイン名やID、パスワードのデータが漏えいすると、それはそれで大問題になります。

パスキー(パスワードの代わりに指紋認証や顔認証、PINコードなどを使ってWebサイトやアプリに安全にログインできる、新しい認証技術)が出てきて、セキュリティはだいぶ向上しました。ただ、コストが高いといった課題もあり、そこはまだ手探りで模索している段階だと思います。


國領氏

津村氏:非対面・オンラインでの経済活動が増えていますし、対面・オフラインであっても無人、あるいは少人数で経済活動を回す場面が増えていますよね。そうした中で、どうやって確実に本人確認をするかは大きなテーマです。加えて、利便性も重要で、ユーザーが面倒くさいと感じると、なかなか広がりません。


津村氏

──そうした背景の中で、iPhoneがマイナンバーカードに対応したり、マイナ保険証のスマートフォン利用が開始したりと、本人確認を取り巻く環境が大きく変わり始めていますね。

津村氏:iPhoneにマイナンバーカードが追加される中で、その前提として国際標準規格である「ISO/IEC 18013-5」のmdocデータモデル(以下、mdoc)が採用されています。そこで、できるだけ早く、簡単に、企業が最新の環境に対応した本人確認の仕組みをお客さまに提供できる環境を用意したいと考え、公的モバイルID認証サービス「VeriMe」をリリースしました。

──「VeriMe」は、どのようなサービスなのでしょうか。

津村氏:「VeriMe」は、本人確認を必要とする事業者様向けのプラットフォームサービスです。対面やオンラインの幅広いシーンで、iPhoneのマイナンバーカードを、簡単に、素早く、安全に活用できるようになります。本人確認を行う事業者とユーザーの、利便性と安全性の向上に貢献します


VeriMe画像

本人確認への対応が、企業競争力の差になり始めている

──スマートフォンでの本人確認が普及する中で、こうした環境に対応できない場合、企業にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。

津村氏:企業活動の中には、業務や業界ごとに本人確認が定められている法律や条例が数多くあります。そうした分野でも、働き手不足が着実に進んでいます。人手がますます貴重になる中で、事業を継続しようと考えると、いかに簡便に利用者へ本人確認サービスを提供できるかが重要になり、そこが競争力につながっていくと考えています。

非対面については、2027年の法改正(改正犯罪収益移転防止法)を見据えた動きもあり進んできていますが、対面領域はまだまだです。本人確認書類を提出してコピーを保管することを求める法律も多く、そうした部分が変わらないと、デジタルな手段による省力化や無人化は進められません。国もアナログ規制の撤廃を進めていますが、対面領域は非対面よりも遅れているというのが現実です。

そうした中、今回、スマートフォンにしっかりとした本人確認の仕組みが入ることは、状況改善に向けた良いきっかけになると考えています。マイナンバーカードがiPhoneに入るようになると、マイナンバーカード(物理カード)と比べてユーザビリティは、はるかに高くなります。

──一方で、対応の難しさもあるのではないでしょうか。

津村氏:ゼロから作るとなると、仕様をきちんと理解しなければなりません。当社には国際標準規格mdocの標準化活動に参加しているメンバーもいますので、そうした知見を生かし、幅広いOSやブラウザに対応した仕組みをいち早く提供し、さまざまなシステムに組み込める環境を整えていきたいと考えています。

ちょうど最近、Windows OSとブラウザAPIへの対応を近日中に実施予定だと発表したのもそのような取り組みの一環です。企業の現場では、POSシステムや業務システム(PC)はWindowsが主流ですし、ネイティブアプリではなく、WEBサービスを提供している企業も多くあります。それらの企業が、自前で全てをカバーするのは大変です。そこで当社が、幅広いOSやブラウザに対応したプラットフォームを用意し、さまざまなユースケースで使ってもらうことで、できるだけ安価に提供していきたいと考えています。


VeriMeデモ

──國領先生は、iPhoneのマイナンバーカード対応については、どのように見ていますか。

國領氏:デバイスでセキュリティをどう担保するかという点では、マイナンバーカードのチップを使うか、スマートフォンのハードウェアセキュリティを使うか、現実的には2択です。その中で、利便性という意味では、スマートフォンでの本人確認が圧倒的に良い。

津村氏:国も来年にはAndroid対応を行うと表明していますよね。

國領氏: そうですね。Androidにはハードウェアセキュリティが入っていますので、そこを使う形になるでしょう。

津村氏:もちろん当社もAndroid対応を進めます。今のうちから検討できる環境を提供し、本人確認の仕組みをスマートフォンに入れているお客さまが、法律に関係なく必要なときに活用できるようにしておくことが、競合との差別化につながっていくと考えています。

國領氏: セキュリティ対応は、それ自体が収益を生むものではなく、どうしてもコストとして扱われがちです。ただ、企業はDXを推進しなければ、人手不足の中で話にならない。一方で、導入したからといって、そのコスト分の収入が自動的に増えるわけでもありません。「スマートフォンのマイナンバー対応は新たなビジネスチャンス」と捉え、そこから先のビジネスモデルを作れるかどうかが、次のフェーズで問われてきます

津村氏:まさに、だからこそ当社としても、利用者が「便利だ」「自分にとって良いことがある」と感じられる仕組みを、プラットフォームとしてまず提供することが重要だと認識しています。導入する企業と利用者の双方にとって利便性が高まるユースケースを、いかに作り上げていくかが、社会のデジタル化の加速に不可欠なはずですから。
 

仕組みやコストは理解された上で、利用者が喜んで使ってくれる形をどう作るかが鍵であり、技術面だけでなくユースケースも含めて伴走しながら作り上げていきたいですね。顔認証クラウドサービス「KPASクラウド」も提供していますので、そうしたサービスと使い分けていくこともポイントだと思っています。

公的資格と民間活用が交差する、本人確認の次の可能性

──自治体が発行する公的資格や証明との連携については、どのように考えていますか。

國領氏:自治体による公的資格の支援という観点では、本人確認の仕組みが整ってくると、さまざまな展開が考えられますよね。

津村氏:そうですね。もちろん当社としても、プラットフォームとしては対応していきたいと考えています。その場合、アプリケーションの在り方も含めて検討する必要は出てくると思います。

國領氏:たとえば、スマートフォンをパッとかざして本人の資格情報などを手軽に提示できれば、「看護師なら20%オフ」といったカフェが出てきても面白いのではないでしょうか。資格をそのまま価値につなげられるわけです。

津村氏:当社でも「VeriMe」のデモの中では、高齢者向けの割引といったイメージを作っています。そうした取り組みを、資格版として展開するのは非常に参考になりますね。


國領氏: 今、自治体では独身証明を戸籍データから発行していますが、民間のマッチングサービスなどでは、独身の確認にかなりコストをかけています。それがデジタルで容易にできるようになると、ニーズはかなり高いのではないでしょうか。

津村氏:マイナンバーカードの情報は、あくまで本人確認が中心ですが、そこに他の資格情報などが乗ってくると、できることが一気に広がりますよね。権利の証明などにもつながってきます。

加えて、会員情報を最新の状態に保てるチャンスにもなります。ポイントカードなどは何十年も同じ情報で使われているケースもありますが、スマートフォンであれば更新してもらいやすい。その点も重要だと感じています。

國領氏:まずは、コンビニでの年齢確認あたりから始めるのが現実的かもしれませんね。

津村氏:たしかに、海外の事例を見ても、年齢確認から始まるケースは多いですね。まずはそこから、というのは十分あり得ると思います。

非対面にとどまらない、「業務に組み込める」本人確認の強み

──「VeriMe」の競合との差別化や特徴については、どのように考えていますか。

津村氏:従来のeKYC事業者と比べると、非対面だけでなく対面領域での本人確認を含めて、活用の場を広げられる点が大きな違いです。また、スマートフォンだけでなく、Windowsやブラウザなど業務用端末でも使える環境を整えていくことも特徴だと考えています。

さらに、既存の企業システムと連携しやすいインタフェースを用意しており、業務に組み込むことを前提にしている点も重要です。

國領氏:そのインテグレーション部分で、どこも苦労していますものね。セキュリティとプライバシーは特に面倒なところなので、これを使えばすぐ導入できて安心、となれば価値は大きいでしょう。

津村氏:まさしく、そうした世界を作りたいと考えています。大手企業は自前でシステムを構築していますが、それ以外の規模の企業では、業界ごとのパッケージやサービスを使っているケースが多い。そのようなサービス事業者との連携も進めていくつもりです。

規模に関係なく、既存の業務ツールと連携して、容易かつ安心して認証できるサービスを目指しています。現在、さまざまな業界向けの企業と話を進めているところです。

國領氏:単なるコストの話だけでは、なかなか使ってもらえませんからね。使う人にとってのメリットが見えないといけない。たとえばさいたま県大宮駅の商店街では、周辺自治体の住民が新宿や池袋で買い物をするので、集客に苦労していると聞きます。たとえば周辺自治体の住民には割引を提供する、といった活用も考えられますよね。


本人確認が「コスト」から「成長の起点」へ変わるとき

──今後、本人確認がより簡単になっていく時代において、企業にはどのような視点が求められるのでしょうか。

國領氏:やはり大事なのは、新しいビジネスモデルを作れるかどうかだと思います。本人確認が「単なるコスト」である間は、どうしても後ろ向きになりがちです。でも、新しい業態を生み出すところまで進めば、意味合いはまったく変わってきます。

これまでの本人確認は、属性確認や身元確認といった基本情報の連携にとどまっていました。ただ、その「基本」をうまく切り離し、複数の企業がコラボレーションしながら使えるようになると、可能性は一気に広がります。現時点では制約もありますが、セキュリティを担保した形で識別子を活用できるようなピースがそろってくれば、マーケティングやロジスティクス、決済の在り方も相当変わっていくはずです。

そのときに、ビジネスモデルがどう進化し得るのかを今すぐにでも研究しておかないといけません。さらに、そこから生まれるデータをAIでどう活用するかまで考えておく必要もあります。他社よりも2、3年先に始められる企業が、やはり強いですよね。

津村氏:当社としても、まずは新しくできるようになったことを、いかに早く市場で試してもらえるよう支援していきたいと考えています。そのためには、技術提供だけでなく、ユースケース作りにも伴走していくことが重要です。

特に、さまざまな利活用を考える上では、キーとなる識別子の存在は欠かせません。システム連携を進める上でも、企業同士の連携を視野に入れる上でも、どういう仕組みにするのかが問われてきます。利用者にとっても、企業側にとってもメリットのある形を目指していきたいですね。

國領氏:突破すべきハードルは多く残っていますが、できた順番に新しいビジネスモデルが生まれてくるはずです。そのプロセス自体を、楽しみにしています。



出典:ビジネス+IT「慶應大の國領氏「iPhoneのマイナンバーカード対応はチャンス」 本人確認が“競争力”になる日」
https://www.sbbit.jp/article/sp/178246


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