「廃プラ問題」を解決するために――新素材「LIMEX」と「CirculeX」で構築する資源循環型のビジネスモデルとは

「廃プラ問題」を解決するために――新素材「LIMEX」と「CirculeX」で構築する資源循環型のビジネスモデルとは
取材・文:相澤良晃

2011年創業の素材メーカー「TBM」は、プラスチックや紙の代替素材「LIMEX(ライメックス)」を開発して注目を集めている。2020年には日本経済新聞の「NEXTユニコーン調査」企業価値ランキングで3位に。成長著しい同社が、いま新たに取り組んでいるのが「廃プラ問題」を解決するための新たなサプライチェーンの構築だ。執行役員 CSO(最高経営責任者)の山口太一氏に、日本の廃プラ対策の現状や循環型ビジネスモデルを構築するためのポイントなどについて伺った。

枯渇資源の使用量低減につながる新素材「LIMEX」

――はじめにTBMの主力商品である「LIMEX」について教えてください。

山口:LIMEX」は、石灰石を主原料とする新素材です。セメントの原料としても知られる石灰石は、地球上に豊富に存在し、枯渇の心配はまずありません。国内にも約240億トンが埋蔵しているとされ、天然資源に乏しい日本でも100%自給できている数少ない鉱物です。

TBMは2011年の創業以来、この石灰石をプラスチックや紙の代替素材として利用するための研究・開発を進めてきました。そして2014年にLIMEXの特許を取得し2015年には宮城県白石市の自社工場が竣工しました。ちなみに「LIMEX」という商品名は、石灰石の英語名「limestone」と、「無限の可能性」を意味する「X」を掛け合わせたものです。

株式会社TBM 執行役員 CSO(最高経営責任者) 山口太一氏
株式会社TBM 執行役員 CSO(最高経営責任者) 山口太一氏

――実際に、どのように使われているのでしょうか。

山口:名刺やチラシなどの印刷用紙のほか、カップやトレー、アメニティグッズ、ショッピングバッグ、文房具……など、紙製品のみならず、プラスチックの代替素材としても幅広く利用されています。

一般的に普通紙を生産するには大量の水と木材が必要とされますが、「LIMEX」であれば、木や水をほぼ使用せずにシートを製造できます。また、「石油由来樹脂」の塊である従来のプラスチック製品がLIMEXに置き換われば、その使用量は大幅に削減されることになります。耐久性、耐水性などに優れているだけでなく、環境負荷の低減に貢献できることも「LIMEX」という素材の特徴です。

――近年は「SDGs」や「温暖化対策」などの文脈から、大手をはじめ多くの企業が「サステナリビティ」や「循環型経済(サーキュラー・エコノミー)」への関心を高めています。需要の変化などは感じられますか?

山口:はい、水や樹木、石油といった枯渇資源の使用量低減につながる「LIMEX」の需要も、近年は右肩あがりで増え続けてきました。いままでに、約6000社と取り引きがあり、飲食業界では、「吉野家」や「ガスト」のメニュー表にも「LIMEX」が採用されています。

2020年6月からは、セブン&アイ・フードシステムズ、リコー、TBMの3社共同で、「LIMEX」製品の資源循環モデルの構築にも取り組んでいます。セブン&アイ・フードシステムズが運営するカフェ「麹町珈琲」で使われたLIMEX製のメニュー表を回収し、ペレットに加工。そのペレットで製造したトレーを、デニーズで利用しています。

このように、廃棄物をまったく新しいものに蘇らせる「アップサイクル」ができるのも「LIMEX」の強みです。従来の古紙再生では、「新聞紙か、トイレットペーパーか」という具合に、「紙から紙へのリサイクル」しか選択肢がありませんでした。しかし、「LIMEX」であれば付加価値をつけて、廃棄物をさまざまな製品に生まれ変わらせることができます。アイデア次第で多様な資源循環が展開できることに魅力を感じていただき、「LIMEX」を導入する企業も増加しています。

TBMの事業とSDGsとの接点
TBMの事業とSDGsとの接点(提供:TBM)

廃プラスチックを原料とする素材「CirculeX」を開発

――「LIMEX」を導入企業内で循環させれば、環境負荷の削減効果も高そうです。

山口:そうですね。ただし、「脱プラ」「CO2排出量削減」といった地球環境の問題解決のためには、企業単位ではなく、より広く「LIMEX」の資源循環システムを構築する必要があると考えています。

そのための足掛かりとして、TBMは2019年に神奈川県と「かながわアップサイクルコンソーシアム」を発足させました。現在、自治体・企業・団体など50以上のパートナーが参加しています。

廃棄物の資源循環システムは、その地域の実情に合わせてエリアごとに構築していく必要があると思います。神奈川県の取り組みをベースに、各地の自治体、企業と連携しながら地域に根ざした「LIMEX」の循環システムをつくる計画を進めています。

――「LIMEX」の循環システムを各地に普及させていくための課題はありますか。

山口:やはり、採算性がネックです。いくら地域貢献、社会貢献になるからといっても、事業として成り立たなければ普及・拡大はできません。その問題を解決するために、2020年7月に立ち上げたのが「CirculeX(サーキュレックス)」という新ブランドです。

「CirculeX」は、「再生材料を50%以上含むこと」を条件とした素材で、廃プラスチックが主原料になります。「LIMEX」の再生利用のためだけに、廃棄品回収、一次加工、製品製造、供給……といったサプライチェーンを構築し、維持していくのはコスト面で割に合いませんが、「CirculeX」とサプライチェーンを共有することで、収益性が見込めるようになります。

たとえば、これまで「LIMEX」製品だけを回収していたトラックが、廃プラスチックも同時に回収することをイメージしてみてください。一度に多くの「廃棄物=再生資源」を運搬することで、相対的に輸送コストは下がります。

しかも、いま日本は廃プラスチックの処理に困っている状況です。かつて日本は世界第3位の廃プラスチック輸出大国で、2017年には143万トンを海外輸出で処分していました。しかし、2019年に有害廃棄物の国際取引に関する「バーゼル条約」が改正され、廃プラスチックの輸出規制が強化されました。それに伴い、国内処理が原則となったことから、日本政府も「プラスチック資源循環戦略」を掲げるなど、「脱プラ」「減プラ」に力を入れています。最近の「レジ袋有料化」も、「プラスチック資源循環戦略」の一環です。

「CirculeX」事業の根底には、日本に有り余っている「廃プラ」を再生して、国内で循環させたいという思いがあります。そして、広く一般の方々に廃プラ問題への関心をもってもらうために、2021年1月には「CirculeXアプリ」のサービスを開始しました。回収拠点に「廃プラ」を持ち込めば「CirculeXポイント」が貯まる仕組みで、そのポイントはTBMが運用するECサイト「ZAIMA」や社会貢献団体への寄付に利用することができます。

――「CirculeX」を利用した製品にはどんなものがありますか。

山口: 2021年2月に神戸市でCirculeX製指定ごみ袋の店頭販売をしました。再生材料の利用割合は98%。うち約70%が梱包資材のストレッチフィルム、約30%がペットボトルキャップ(15万個)で、すべて神戸市内で回収したものです。

従来品よりも少々割高でしたが、海外製の従来品と比較して約45%のCO2削減を実現できたことから、環境意識の高い方々を中心に好評でした。

また、3月から5月にかけては、東京建物、神奈川県葉山町と連携して、「CirculeX」の実証実験を行いました。オフィスと家庭から排出される使用済みプラスチックを回収し、機械で分別。廃プラスチックの物性の違いなどを分析して、効率よく資源活用するための実証実験を実施しました。

「CirculeX」の実証実験の工程
「CirculeX」の実証実験の工程

2021年3月9日には、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」が閣議決定されました。2022年に施行される予定で、「使い捨てのプラスチック製品の有料化」や「一定以上のプラスチック製品を使用している企業に対して再利用化の取り組みを義務付ける」など、規制対象が広がります。これにより、多くの企業が廃プラ問題を「自分ごと」として捉えざるを得なくなり、対応を迫られます。東京建物と葉山町との実証実験結果を活かし、企業が抱える廃プラ問題の解決サポートにも取り組んでいきます。

循環型ビジネスモデルがグローバルスタンダードに

――最後に今後の展望について教えてください。

山口:海外への技術輸出が大きな目標です。ここ数年、「自国でLIMEXのライセンス事業を展開したい」というお声をいただくようになりました。たとえば、中国・河南省の事業者からは、「地元で採れる石灰石を使って循環型のものづくりのモデルをつくりたい。そしてそれを、中国国内で広めていきたい」というお話をいただいています。

2021年の6月には、石油精製、石油化学、通信や半導体事業を軸としながら、ESG領域のベストカンパニーを目指し、グローバルに展開している韓国大手財閥のSKグループと135億円の資本業務提携に合意しました。本提携に基づき、TBMはSKグループとのサプライチェーンの連携を通じてLIMEXの生産体制を強化し、グローバル展開を加速させます。

グローバルでは、「作って終わり」という直線型のビジネスモデルはすでにマイノリティになりつつあると感じますね。市場に流通させた製品も「資源」として捉え、回収・リサイクルしていく「循環型ビジネスモデル」へシフトしつつあります。

――日本でもそのトレンドを感じますか。

山口:そうですね。世界全体では、新興国での需要が増大することから、プラスチックも紙も生産量が増加していくと言われています。対して日本を含む先進国では、「脱プラ」「環境負荷低減」の必要性がいっそう叫ばれるようになり、規制も厳しくなっていくはずです。企業対応が迫られるなかで、ぜひ弊社の「LIMEX」や「CirculeX」を循環型ビジネスモデルに取り入れてほしいと思います。

今年4月には、第一工場の約4倍の生産能力を誇る第二工場を宮城県多賀城市に新設しました。ここを拠点に、国内外でのLIMEX事業を加速させ、「エコロジーとエコノミーが両立する循環型社会への移行」に貢献できるよう、これからもビジネスを広げていきます。

宮城県にある多賀城工場
宮城県にある多賀城工場(提供:TBM)