ドライバーの労働環境を改善するカルビーグループ――持続可能なサプライチェーンの構築を目指す
現在、業界問わず深刻化しているのが、物流ドライバーの労働環境の問題である。長時間の荷待ちや、手積みや手卸しによる過酷な荷役作業、非効率な検品作業など解消すべき問題は多い。物流ドライバーのさまざまな課題に対し、「10(テン)プロセス」と呼ばれるサプライチェーン全体での解決を目指しているのが、カルビー株式会社である。食品メーカーである同社は、世界的な問題となっている食品ロスに対しても、解決にむけた取り組みを強化中だ。同社の取り組みについて、カルビーグループのサプライチェーンマネジメント(SCM)を担うカルビー株式会社 生産カンパニー SCM本部 本部長 兼 カルビーロジスティクス株式会社 社長 松元 久志 氏と、カルビー広報の間瀬理恵氏に聞いた。
原料調達から消費者に届くまでの10のプロセスからなるサプライチェーン
――まずは、サプライチェーンマネジメント(SCM)に対するカルビーグループの基本的な考え方から教えていただけますか。
松元:カルビーでは、原料工程である①種子、②圃場(作物を栽培する田畑)、③原材料、生産から物流までの工程にあたる④前処理、⑤加工、⑥調味、⑦包装、⑧在庫、そして⑨製品流通、⑩店頭からなる営業段階まで、消費者に届くまでの10のプロセスをサプライチェーンと捉え、「10プロセス」と呼んでいます。
その各プロセスで、後工程に対して、製品、業務問わずすべての品質を100%保証。これによって無駄なく淀みない流れを作るというのがわれわれのサプライチェーンマネジメントの考えです。
松元:一般的に、メーカーがバリューチェーンと見なすのは③から⑨までの7つのプロセスだと思いますが、カルビーでは、より消費者に近い⑩店頭に加え、原料に関わる①種子、②圃場も含めます。ポテトチップの原料である馬鈴薯については、北海道の契約農家と共同で種子や圃場まで管理することで、原料の安定調達を実現しました。
生産者の方々には、工場を見学していただき、どのように製品になるのかを確認してもらいます。収穫時期には逆に工場の担当者が生産現場を見学に行き、生育状況を確認したり、製造現場と生産者の交流を通じてよりスムーズな連携も実現しています。また、消費者からのフィードバックを、店頭から営業、物流、生産、原材料へと届ける仕組みも構築しています。このように各プロセスをうまくつなげていくというのが、カルビーのSCMの特徴です。
――素材の開発、育種から手がける独自のSCMといえますね。各部門間では、具体的にどのような連携が取られているのでしょうか。
松元:まず、マーケティング部門情報を基に営業部門で販売計画を立案し、物流部門とカルビーロジスティクスが連携しながら年間の物流プランをまとめます。生産部門では、その物流プランにあわせて生産プランを策定、それらに基づいて在庫計画および北海道から九州まで全国14ある工場の稼働計画を立て、出荷指示を行い、原材料部門がそれに必要な原材料調達計画を立てます。
その後は、月1回、営業・マーケティング部門、原料部門を含めたミーティングで計画の見直しをしながら、次に向けた活動を決めていくという仕組みです。これらの情報を取りまとめているのは物流部門で、特約店、卸売業、小売業からの受注業務も担っています。こうした物流部門の役割は、他のメーカーと異なる点かもしれません。
ドライバーに選ばれる労働環境と、属人化しにくい仕組みづくりを目指す
――サプライチェーン全体の効率化は、どの業種においても課題になっています。そのなかでも、要となる物流においての課題は何でしょうか。
松元:やはり深刻なのは、ドライバー不足です。2018年度の経営計画に基づき、カルビーとカルビーロジスティクスでは、ドライバーに選ばれる環境の整備を目指して、付帯作業の削減や待機時間の削減に向け本格的な取り組みを始めました。
【用語解説】
付帯作業
ある作業を行うときに付帯的に発生する作業のこと。物流ドライバーの場合、通常の運送業務以外の、商品やパレットの搬送、ピッキング棚へ商品を移動させる作業がこれに当たる。
松元:付帯作業については、毎年対前年50%削減を目指し、最終的にはゼロにすることを目標にしています。まだまだゼロにはできていませんが、カルビーの物流部門、カルビーロジスティクスの各センターが課題を共有しながら、年度ごとに具体的な方策や方向性を決めて取り組んでいます。私たちはこれらを重要な経営課題と捉えていて、中期経営計画(2020年3月期〜2024年3月期)では、物品の積み下ろしなどの荷役工数およびデータ入力や伝票作成などの事務工数の30%削減、ドライバーの待機時間30分以内、パレット輸送100%の環境を整えていくことを目標に定めています。
工数の削減には自動化、AI化の推進が欠かせません。たとえば、商品の販売予想については、100%の予測はできませんが、7〜8割の精度であれば、曜日別など過去の売り上げデータを活用した商品のトレンドを予測できる可能性があります。残りの2〜3割は人に頼ることになりますが、誰もが利用できる予測システムを構築し、仕事のクオリティにバラ付きがない仕組みを作りたいと考えています。
――食品メーカーであるカルビーならではの課題などはあるのでしょうか。
松元:工場間のパレット輸送が進んでいないことです。この部分の自動化が進まない原因の1つとして、カルビーの扱う商品が軽量、嵩高(かさだか)であるということがあげられます。1ケース5kgや10kgとなる飲料のような重量物だと作業的にパレットでないと厳しくなりますが、ポテトチップスなどは1ケース1kg程度ですから2ケース持っても手作業でできてしまうのです。バラ積みからパレット輸送に変えるだけで、ドライバーの作業量は4分の1程度に軽減されます。2024年には、トラックドライバーの労働時間に関する法律で時間外労働の上限規定が設けられます。こうしたことを考えても、パレット輸送へのシフトを実現し、ドライバーの働き方改革につなげることが不可欠です。
――国土交通省、経済産業省、農林水産省が2019年3月にスタートさせたホワイト物流推進運動にも賛同されていますね。
松元:はい。カルビーグループの取り組みと重なる部分が多く、菓子業界の仕組みを変えるという意図からも、この運動に共鳴し、登録しました。国土交通省では、待機時間、ドライバーの拘束時間、構内の荷役時間など7項目の問題に対して、ドライバー環境を変えるための13項目の具体的な手段を挙げています。
これに対して、カルビーグループでは、レンタルパレットの利用も含めたパレット輸送の拡充と管理、自動化の推進、付帯作業の削減など、具体的な項目を掲げて進めています。
横断型のプロジェクト体制で持続可能なサプライチェーンの構築を目指す
――環境負荷の削減をはじめとした「持続可能なサプライチェーン」構築の取り組みについても聞かせてください。
間瀬:環境負荷の削減については、以前から環境対策課が取り組んでいますが、2010年頃から、「事業そのものがSDGsにつながる」という考えにシフトし、社会貢献活動やダイバーシティ経営を積極的に進めてきました。
間瀬:中期経営計画(2020年3月期〜2024年3月期)では、重点課題の1つとして「社会共創、持続可能社会の実現」をあげ、食品ロス削減20%、温室効果ガス30%削減等を通した持続可能なサプライチェーンへの取り組みを推進しています。食品ロス削減のための取り組みとしては、2019年10月から、ポテトチップスを中心に賞味期限をこれまでの「4カ月」から「6カ月」に延長した商品の販売を始めました。この賞味期限の延長で小売店を含め、製造から消費までの全体で廃棄量を減らしています。
経緯としては、2018年に農林水産省による食品ロス削減推進の動きが加速したこともあり、このプロジェクトが動きはじめました。揚げ油を含めた原材料の改善や変更、及び製造過程の工夫を徹底するとともに、窒素充填の設備を整え、厳格に設定している品質の問題もクリアし、賞味期限延長が実現しました。昨年10月には全商品の約3割の賞味期限を延長し、今後はさらにじゃがりこ、Jagabee、サッポロポテトなどのスナック、シリアルにも拡大していく予定です。
間瀬:さらに、賞味期限の延長にあわせて、製造年月日の表示を「月日表示」から「月表示」に変えました。月表示にすることで、食品ロス削減にもつながりますし、現場での先入れ先出しや検品の簡素化等のオペレーション負担軽減効果が出ています。ほかにも、パッケージやダンボールのサイズダウンなども実行し、中期経営計画に沿った事業環境の変化に対応した基盤づくりを目指しています。
――業務上の問題を改善していくことは、サプライチェーン全体への影響も大きいでしょうね。物流においてはどのような変化が起きているでしょうか。
松元:意外に思われるかもしれませんが、物流においてより大きな影響を及ぼしているのは、月表示への切り替えです。ドライバーが店頭に商品を届ける際には、入庫の古い商品から出荷をする「先入れ先出し」という入れ替え作業をしなくてはいけません。日付管理商品の場合は、日々のオペレーションをしながら、日にち単位の作業が必要になります。
それが月表示になると、作業が月単位になり、結果として、ドライバーの拘束時間が削減されます。食品ロスの削減だけでなく、物流の働き方改革につながっているのです。月表示への変更をさらに進めていくことも、持続可能なサプライチェーンの在り方を考える上で重要でしょう。
業務における問題の多くは、複数の部署が関わらないと解決しません。カルビーグループでは、会社や部門をまたいだ横断型プロジェクト体制を敷いています。たとえば、パッケージを見直すのであれば、商品、R&D、工場の製造、包装機などの各担当者がチームを組みます。こうした連携をより強め、持続可能なサプライチェーンの構築に向けて取り組んでいます。
コロナ禍でも創業当時と変わらない思いで課題解決に取り組む
――2020年のコロナ禍を受け、新たに見えてきた課題はあるでしょうか。また、今後の展望なども合わせてお聞かせください。
松元:製造過程に関しては変わりませんが、従業員に対して安心・安全に働ける環境を提供する重要性をあらためて痛感しています。商品を製造し、供給することはカルビーの使命です。新型コロナウイルスの感染拡大に限らず、台風や大雨など、毎年のように災害は起きています。社内だけでなく、物流会社、取引先とも知識や情報を共有しながら、ドライバーがカルビーの商品を常に安心・安全に運べるよう、災害時の基準も策定し、運用する必要があるでしょう。
さらに、受注システムの100%オンライン化、ペーパーレス化も課題です。現在、お客様からの注文は、EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)が95%を占めますが、残りの5%はいまだにファックス受注などです。今回の危機で、対人接触を伴わない方法が求められるようになったこともあり、以前にも増して解決すべき課題としての認識を強く持ちました。
松元:カルビーは、本来は酸化しやすい、油を使った菓子の出来立てのおいしさを届けたいという創業当時と同じ思いで、これまでQC活動(Quality Control:品質管理)や全部門でロス・ゼロ達成を目指す TPM(トータルプロダクティブマネジメント)活動などの改善活動を行ってきました。「SCM改革」と大上段に構えるまでもなく、生産、販売、物流の連携や、店頭を起点とした改革を続けてきたということです。
昨今、問題となっているドライバー不足への対応など、時代とともに取り組むべき問題は変わりますが、基本姿勢は変わりません。カルビーの方向性や方針を踏まえながら、これからも、関係部署や取引先と課題を共有し、一緒に解決しながら一歩ずつ進んでいこうと考えています。