エアロネクストの革新技術「4D Gravity®」とはーードローン物流実現の鍵は「機体の構造」にある

ドローン物流実現の鍵は「機体の構造」にある! エアロネクストの革新技術「4D Gravity®」とは
取材・文:小村トリコ(POWER NEWS)、写真:藤牧徹也

無人航空機「ドローン」の産業利用に革命を起こす新技術が生まれた。ドローン・アーキテクチャー研究所「エアロネクスト」が発明した重心制御技術「4D Gravity®」は、従来のドローンが持つ「風に弱い」などの課題をクリアすることで、新たな可能性を生み出そうとしている。2018年3月に原理試作(プロトタイプ)を発表して以降、国内外のピッチコンテストにおいて数々の賞を総なめにして、世界的な注目を集めた。同社の田路圭輔(とうじ けいすけ)代表取締役CEOは「4D Gravity®がもたらす変革によって、ドローンは新たな時代に突入する」と話す。新技術を使った次世代ドローンはどうあるべきなのか。

空飛ぶ産業ロボットに「仕事」をさせるために

――まずはドローンの定義とその成り立ちについて教えてください。

田路:ドローンは複数の回転翼を備えたマルチコプターの一種です。モーターによって駆動する複数のプロペラで揚力を発生させて浮き上がり、多くの場合は電動バッテリーによって自律飛行が可能です。ヘリコプターとの違いは、動力が電気であること、また回転体であるローターを3つ以上備えていることです。

もともとはアメリカ軍の無人航空機に対して「ドローン」という呼び名が使われていましたが、1989年に日本のセンサーメーカーである「キーエンス」が、今のドローンの原型となるホビー用ラジコン「ジャイロソーサー」を発売。その特許が切れるタイミングの2010年、フランスの電子機器メーカー「Parrot」がスマートフォンアプリで操作できるドローンを発表したことをきっかけに、一般消費者向けのドローンが広く認識されるようになりました。現在のドローン業界最大手は、“ドローンの聖地”と言われる中国の深セン市に本社を置く「DJI」で、世界で圧倒的なシェアを占めています。

インタビューに応える田路圭輔氏
株式会社エアロネクスト 代表取締役CEO 田路圭輔氏

――ドローンというと、カメラで空撮する機体をイメージします。どんな意義を持つ技術なのでしょうか。

田路:ドローンの本質は「身体の拡張」です。スタート地点は、人間の「目」を空中に移動させるためのテクノロジー、つまり空撮の機能のために開発されました。その方向性は現時点でも変わらず、逆に言えば市場が成立しているのは視点の移動という一点においてのみということになります。

2010年以降、誰でも使える操作性、誰でも買える価格帯のドローンが次々と発売され、メディアで大々的に取り上げられるようになりました。ドローン業界は大変な盛り上がりを見せて、「これからドローンの時代が来る」と誰もが期待を高めたのです。しかしながら、いつまで経ってもドローン市場は進歩しない。その理由は、現在、流通しているドローンのコンセプトは「空飛ぶスマートフォン」であり、空撮ができるおもちゃにすぎないからです。

対して、産業ドローンが目指すべき姿は「空飛ぶロボット」です。単なる視点の移動ではなく、その機能を活用して人間の代わりに何かしらの「仕事」をこなして初めて、産業ドローンとして市場への価値提供が可能になります。

ハードウェアの構造改革によって生まれた新技術「4D Gravity®」

――ドローン産業が発展しなかった原因は何ですか。

田路:決定的な弱点として、「機体」の構造の問題があります。現在のドローンの機体はとにかく風に弱い。マルチコプターが推進力を得るためには、その構造上、機体を斜めに傾けて飛ぶ必要があるのです。傾くことで重心がずれて全体のバランスが崩れ、その状態で風を受けると簡単に落ちてしまいます。特に危険なのは着地時で、実際にドローンの墜落事故が多発しています。安定飛行に対する信頼性が極端に低いのです。

天気の良い日に少しだけ飛ばしてみるといったおもちゃのような使い方ならばそれでも構いませんが、産業利用を考えるのであれば致命的な欠陥です。例えば、無人警備ドローンを作ったとして、警報が鳴った時に「今は風が強いので動けません」では使いものになりません。加えて、機体が傾く際には後ろ側のモーターに負荷がかかるため、エネルギー効率の悪化につながります。ドローンの動力はバッテリーなので飛行時間に限界がある。今のドローンの多くは10〜20分程度しか連続して飛ばせないですし、速度も出にくい。

これらの課題は、1989年、ラジコンとして世の中に登場した時代から変わっていません。ドローンの機体フレームの基本構造は30年間ずっと同じで、進歩したのはプログラムを制御するソフトウェアの領域だけです。技術開発のセオリーとして、ソフトウェアでの機能改善はハードウェアの制約を受けるため、本来であれば先にハードウェアである機体の改善を行うべきです。他の産業に置き換えてみると、航空業界でも自動車業界でも、ハードウェアの構造改革によって劇的な技術革新を遂げてきました。しかしなぜかドローンの分野においては、ソフトウェアへのアプローチしか行われてこなかった。そのせいでドローンの能力は今、壁にぶつかっています。

――その課題はどうすれば解決できるのでしょうか。

田路:ハードウェアに技術革新を起こすことです。具体的には、重心制御技術である「4D Gravity®」を用いることで解決できるでしょう。私たちが提案するのは、新しいパラダイムとなる機体です。従来のおもちゃのドローンをファーストジェネレーションとするならば、4D Gravity®を搭載したドローンはセカンドジェネレーション、「ドローン2.0」です。

進化していないドローンの機体フレーム
進化していないドローンの機体フレーム(提供:株式会社エアロネクスト)

エアロネクストの創業者の1人、取締役CTOの鈴木陽一はもともと「バルーン空撮」のエキスパートです。例えばタワーマンションの完成前にバルーンを飛ばして、物件販売の広告に使える眺望画像の撮影に携わっていました。風船はダイレクトに風の影響を受けるため、これはすなわち強風との戦いです。よりクオリティの高い撮影方法を追求するため、彼は2011年にドローンの研究に乗り出しました。自分でパーツを揃えて機体を組み立て、テスト飛行を行っては墜落してと試行錯誤を繰り返すうちに、コア技術である「4D Gravity®」にたどりついたのです。

4D Gravity®は、ドローンの機体の中で飛行に関わる構成要素であるプロペラを含む「飛行部」と、カメラや本体といった「搭載部」を分離して、「ジンバル」という制御機構で結合することによって独立変位させる仕組みです。そのため機体が左右に傾いても本体の軸は垂直を保ち、一切ぶれません。重心が動かないので、モーターの回転数も一定を保てます。飛行が安定するのはもちろんのこと、燃費が大幅に改善されて、より強い推進力を得られるために飛行速度もアップします。従来のドローンが抱えていた機動性・効率性・安定性の問題を一度にクリアできるのです。

4D Gravity説明用模型
ドローンの構造模型。従来の機体(左)は機体と本体の軸が固定されているが、4D Gravity®搭載機体(右)は分離構造となっており、本体の軸を垂直に保つことができる

新たな用途開発によって世界中のドローンに革命を起こす

――4D Gravity®は今後どのような分野での活用が期待されますか。

田路:産業利用の場合に重要視されるのはその使い道です。次世代ドローンのスタンダードとして、私たちは「Nextシリーズ」という3種類の試作機を発表し、4D Gravity®の効果的な用途を提示しました。そのうちの1つ「Next DELIVERY®」は宅配に特化したドローンです。搭載物を傾けることなく高速移動ができるので、荷物の宅配をはじめ、AEDなどの医療機器や精密機器の輸送、食事のデリバリー、将来的には人間を乗せてタクシーのように空を運ぶ「エアモビリティ」の領域に進出することも可能です。

2つ目の「Next VR」はドローンの原点である空撮機能に特化しています。次世代ドローンの機体中央部を貫通する縦棒の上下に広角魚眼カメラを搭載して、360度の自由視点によるVR映像を撮影します。これは例えば、災害報道や災害救助の現場において、被災地の状況を素早く調査するのに最適です。従来のドローンでは、どうしてもカメラの視界に機体が映り込んだり、傾きの影響を受けたりしてしまい、カメラの死角が生まれてしまいます。それに対して「Next VR」は災害地区を1回飛ぶだけで、すべての状況をもれなく撮影できるのです。

3つ目の「Next INDUSTRY®」は、分離構造を利用して対象物に接近せずに作業を行うことができるドローンです。物がある場所の近くは気流の乱れが発生するため、対象物への接近飛行はドローンにとって最も難しい問題の1つと言われていました。しかし、次世代ドローンの縦棒の先端にカメラやセンサーを取り付ければ、機体と対象物の距離をとって乱流を避けつつ、先端の作業装置だけを近づけることが可能です。壁面や橋梁の検査、農薬散布など、広い分野で活躍が期待できます。

また、これまで誰も想像できなかった新しい使い道も生まれてくるでしょう。例えば、部屋の天井にぴたりとくっつく「天井駐機」です。無人警備ドローンが夜中のオフィスを巡回して、仕事を終えたら自ら天井に張り付いて充電を開始するといった具合です。ロボット掃除機のドローン版といえば、イメージしやすいでしょうか。

他にも、消防の消火ホースをドローンにぶら下げて飛行したまま水を噴射したり、長距離飛行とピンポイント着陸の両立を実現したりと、可能性は無限大であると言えます。

インタビューに応える田路圭輔氏

――エアロネクストは「ドローン・アーキテクチャー研究所」を名乗っています。その役割とは何でしょうか。

田路:私たちの仕事は従来機体に4D Gravity®の技術をインストールし、世の中のすべてのドローンの性能をアップさせることです。これは「メーカーニュートラル」と呼ばれるスタイルで、技術を1社で独占することなく、さまざまな企業と組んで機体を進化させ、事業を展開し、いわゆる協調領域に対して働きかけを行います。

地上から150メートルまでの空間には、今まで鳥と電波しか飛んでいませんでした。宇宙や深海の開発は進んでいても、身近な空域はぽっかりと空いています。このエリアを「経済化」しようというのがドローンビジネスの真の狙いです。フライングロボットやエアモビリティが空中を飛びまわって活躍するようになれば、確実に社会が変わります。

人間の仕事の延長線上にありながら、人間の能力だけではカバーできない、ドローンならではの価値を発揮していく。例えば物流の分野なら、24時間いつでも注文したものがリアルタイムで配達されて受け取れるような仕組みが実現できるわけです。そのためには何よりもまず機体の信頼性が不可欠で、それを担保する唯一の技術が機体の分離結合構造の「4D Gravity®」なのです。近い将来、この技術によってドローン業界は飛躍的な進歩を見せるでしょう。

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