食材宅配の「ベクトルワン」ーードライバー不足を自社開発のシステムと独自の雇用制度でビジネスチャンスに(2)
優れた物流ノウハウと自社開発の配送管理システムで注目を集める「ベクトルワン」。しかし、同社が躍進を続ける理由はそれだけではない。むしろ、働く人に充実を感じてもらえる環境づくり。そして、コミュニケーションを大切にした地域密着型のサービスなど、企業に関わるすべての人を心から満たす方法を追求した結果なのかもしれない——ベクトルワンの「人」に根ざした企業活動を中心に、田中靖丈・代表取締役に語ってもらった。
未経験者を雇用してドライバー不足を解消
——営業活動をしていないのにも関わらず、仕事の依頼が増えていると前編でお聞きしましたが、それはなぜなのでしょうか。
田中:弊社が行っている食材宅配など宅配サービスへの需要が大きいのに対して、ドライバーが不足していて、満足に宅配サービスを提供できる事業者が少ないからだと思います。要するに、需要が供給を大きく上回っているということです。
人手不足はさまざまな業界で問題になっていますが、特に物流業界では顕著です。国土交通省の発表では、トラックドライバーなど軽運送業に携わる人の95%が個人事業主、つまり雇用されていない状態で働いているということです。長時間労働で賃金が低いなど労働条件が悪いイメージも浸透していて、職業として不人気なのです。
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サービスを提供するにあたって一番苦労したのは、我々も同じく人手不足でした。そこで、それまでドライバーになるなんて考えたこともない人にもドライバーとして働いてもらうために、ほぼすべてのスタッフを個人事業主ではなく正社員やパートタイムとして雇用し、できる限り労働環境を整えました。
田中:それに加え、前編でもお話ししたとおり、未経験者でも安心してドライバーとして仕事をしてもらえるよう、システムでサポートする仕組みも構築しました。これが功を奏して、いまでは多くの未経験スタッフもドライバーとして活躍してくれています。
こうして人材を確保した一方で懸念されたのが、仕事に充実感を持ってもらえるかどうかでした。いかにやりがいを感じて仕事を続けてもらうかも、継続的に人手を確保するうえでは当然大きな課題となります。
そこで、ドライバーの業務においては、ある程度アナログな部分も残しつつバランスを取るようにしました。というのも、すべてをシステムの指示通りに動くのでは、やらされるばかりの受け身になり、仕事にやりがいが持てず離職する人が増えると考えたからです。
例えば、システムで配車計画を立てれば、どのトラックがどの集配を行うのが最も効率的かは自動で計算されます。しかし、配送途中で新たに入ってきた注文への対応については、システムに計算させるのではなく、「誰か行ける人はいないか」とあえてドライバーに聞き、自主的に手を挙げてもらうようにしています。
そうすると、手を挙げてくれたドライバーに対して仲間内で感謝の気持ちが生まれ、チームワークが良くなります。それに、お礼を言われたドライバーはモチベーションが高まります。そうしたことの積み重ねが充実感を生むのだと思い、自動化することが可能であっても、一定の業務についてはドライバーの主体性に委ねています。
いま求められているのは、地域密着型の丁寧なサービス
——人手不足の克服がそれだけ大きな課題であり、また、ビジネスチャンスにもなるということですね。しかし、担い手不足以外にも、御社のサービスに人気が集まるのには理由がありそうです。ベクトルワンならではの強みは何ですか。
田中:弊社では、すべてのスタッフを「お客様係」として育成しています。この点が強みかもしれません。お客様係とは、荷物を運ぶだけの一般的なトラックドライバーとは異なり、ホテルのコンシェルジュのような高い接遇能力を身につけたドライバーのことです。
お客様係は宅配に加え、玄関先でのコミュニケーションでお客さまと人間関係を築いたり、予約販売商品のご提案をしたりなど、高品質な接客を行っています。また、我々のように食品を扱う場合には、清潔感のあるサービスを提供できるかどうかが非常に重要です。そのため、基本的なことではありますが、お客様係は小まめに手を洗い、衣服の汚れに注意を払うなど、常に清潔を保つよう徹底しています。
田中:小売店に対しては、ネット注文に応じて倉庫から商品を取り出すピッキング作業や、配送中に商品が傷まないよう荷造りをするパッキング作業の代行サービスも、ご要望があれば提供しています。
さらに、地域密着型のサービスの提供を目指しているのも特徴です。食文化は地域により大きく異なり、求められる接客も変わります。それを踏まえ、我々は、お客様係の玄関先でのコミュニケーションを通じて各地域の特性を理解し、地域に合わせたサービスを提供するよう努めています。
あと、これは強みとは別の話かもしれませんが、地域を大切にするのにはもう1つ理由があります。それは、食品スーパーの各店舗を中心として地域とつながり、お客さまからいくつの「ありがとう」をもらえるかが我々の存在意義だと思っているからです。
人は個々が孤立して暮らしているよりも、地域とつながって共存していく方が暮らしやすいものでしょうし、働く者だってそれは同じはずなのです。地域社会に馴染めなければ評判が悪くなり、仕事を失います。それに、地域に貢献している、役立っていると感じるからこそ、誇りをもって仕事を続けられるものなのではないでしょうか。
結局のところ、スタッフは、お客様係として地域に根差したサービスを提供することで、顧客満足度を上げるのはもちろん、お客さまとの関わり合いのなかで仕事に対する誇りを獲得しているのです。
ドライバー不足を補うテクノロジーの活用が、今後は不可欠に
——地域社会に貢献するために、今後、買い物支援以外の家事支援を行っていくことも検討されていますか。
田中:高齢者の見守りや家事の代行など、何かの形で生活支援サービスを提供できないかと考えています。そうしたサービスを提供する企業やNPOに取り次ぎを行うのか、あるいは、弊社のスタッフ自らがサービスを提供するのか。さまざまな可能性を模索していますが、まだ構想段階です。
――そのほかに、課題や目標はありますか。
田中:人手を補うためのテクノロジーの利活用は避けては通れず、これから具体的にどう活用していくべきか、情報収集や実証実験を重ねています。
注目しているのは、人の操縦なしで自立走行する無人搬送ロボットや、トラックに完全自動で荷物を積み込むロボットなどです。実証実験は、グループ会社であるセイノーホールディングスの子会社「ココネット」が中心となり行っています。2018年は、無人搬送ロボットの公道での走行実験を、国内で初めて実施しました。
人手不足の問題は非常に深刻です。我々もテクノロジーをうまく活用しないと、物流業界では生き残れなくなる日が来ると危機感を持っています。
今後さらに高齢化が進み、共働き世帯が増え、買い物支援などの家事支援はますます必要とされるようになると見られます。地域に根差した、真に必要とされる買い物支援サービスを提供するためには、「お客様係」をはじめとする人の力、そして人手を補うためのテクノロジーの活用が不可欠です。いずれの力も最大限に引き出せるよう環境を整え、サービスを維持、拡充していきたいと思います。