サプライチェーンの「限界を超える」――Blue Yonderが発表した、人とAIの協働を実現する次世代ソリューションとは?

サプライチェーンの「限界を超える」――Blue Yonderが発表した、人とAIの協働を実現する次世代ソリューションとは?
文:末岡洋子、写真提供:Blue Yonder

パナソニック コネクトの100%子会社であり、AIを中心にさまざまなサプライチェーンソリューションを提供するBlue Yonderは、2025年5月4~7日に米国テネシー州ナッシュビルで、顧客向けのフラッグシップイベント「Blue Yonder ICON 2025」(以下、「ICON 2025」)を開催しました。セッション数は187に上り、サプライチェーンマネジメントの未来を探ろうと1,500人以上の顧客やパートナーが参加するなど盛況を博しました。

ICON 2025で発表された、新たなBlue Yonderのタグラインは「限界を超えて(Move beyond boundaries)」。AIをサプライチェーンソリューションの中核に据えるBlue Yonderがめざす、サプライチェーンの未来とはどのようなものなのでしょうか?

AI記事要約 by ConnectAI

※ConnectAIは、パナソニック コネクトが社内で活用している生成AIサービスです。

1AIを核とした次世代「コグニティブソリューション」の登場
Blue Yonderは「ICON 2025」で、サイロ化された複数のワークフローを統合する次世代「コグニティブソリューション」を発表。クラウドの利点を最大限に活かした設計とAIデータクラウドを基盤に、サプライチェーン全体を一元的に最適化。従来は数日から数週間かかっていた混乱への対応を数分で完了させ、意思決定の自動化と精度向上を実現する革新的なアプローチを提示しています。

2人間の意思決定プロセスを再現する「SADAループ」と5つのAIエージェント
コグニティブソリューションの中核となる「SADAループ」(See-Analyze-Decide-Act)は人間の意思決定プロセスを再現。さらに5つの専門AIエージェント(在庫、陳列棚、倉庫、物流、ネットワーク管理向け)が特定業務を自律的に処理。毎日250億件を超えるサプライチェーンインテリジェンス業務を処理する技術力により、リアルタイムでの課題解決を可能にしています。

3持続可能性と人間中心設計の追求
「Blue Yonder Sustainable Supply Chain Manager」の発表により、コストやサービスレベルと並行してCO2排出量や廃棄物を測定・管理・最適化する機能を提供。同時に「ヒューマンファースト」なUX設計により、人間とAIの協働を促進。単なる自動化ではなく、人間の判断力とAIの処理能力を組み合わせ、持続可能な成長を実現する「サステナブル・アバンダンス」の実現に向けた具体的な一歩を示しています。

「コグニティブソリューション」が、これまでのSCMの手法を一新する

サプライチェーンの「限界を超える」――Blue Yonderが発表した、人とAIの協働を実現する次世代ソリューションとは?

地政学的なリスクや予期せぬ市場の混乱、そして絶えず変化する消費者行動といった不確実性・複雑化に直面する現代のサプライチェーンにおいて、Blue Yonderは「すべての個人と組織に、可能性を最大限に発揮できる機会を提供」することをミッションに2003年からAI分野でのイノベーションに取り組んできました。

特にここ3年間には、プロダクトの革新と戦略的買収に20億ドル規模の投資を行い、数千名近いエンジニアの努力をもとに、さらなるイノベーションを促進。この間に出願および取得した特許は数百件に及びます。同時にデータクラウドプラットフォームを提供するアメリカのテクノロジー企業Snowflakeをはじめ、新たな開発パートナーシップも構築してきました。

「ICON 2025」メインセッションで、Blue Yonder CEOのダンカン・アンゴーヴは、これまでのBlue Yonderの歩みを振り返りながら、「限界を越えて(Move beyond boundaries)」というタグラインとともに、サプライチェーンマネジメントのスピード・精度を飛躍的に向上させるソリューションの数々を発表。特に大きな注目を集めたのが、次世代の「コグニティブソリューション」と、それを支える5つの新たなAIエージェントです。

コグニティブソリューションとは、これまでサイロ化されていた複数のワークフローを一つの意思決定フレームワークに統合する、Blue Yonderの新たなインテリジェントシステム。AI機能をネイティブに備えることで超高速かつ正確なデータ処理と、予測精度の大幅向上を実現し、人の指示を待つことなく、あらゆる知見・洞察をサプライチェーンにもたらすソリューションです。

アンゴーヴは、「今日からはタスクだけでなく、意思決定や成果までも自動化する次のチャプターに向かう」と言います。では、コグニティブソリューションは、どのようにサプライチェーンマネジメントに革新をもたらすのでしょうか? まず、アンゴーヴは、コグニティブソリューションを形成する7つの設計要素を紹介しました。

サプライチェーンの「限界を超える」――Blue Yonderが発表した、人とAIの協働を実現する次世代ソリューションとは?
コグニティブソリューションを形成する7つの要素

1. クラウドネイティブ

​​最新テクノロジーをベースに、クラウドの利点を最大限に活かした設計により、無限のスケーラビリティ、高度なセキュリティ、優れたレジリエンス、最新機能への自動アップデートを実現。

2. AIデータクラウド & Blue Yonderプラットフォーム

SnowflakeデータクラウドとBlue Yonderプラットフォーム上に構築されており、一度データを取り込むと数十ものシナリオを数分内に並行処理することが可能に。データの検索性、接続速度、クエリの処理速度や一貫性を組織全体で向上させることで、機械的な高速処理で精度を100倍に引き上げ、複雑な問いにも瞬時に答えを出す。さらに、クラウドモデルの仕組みにより、新機能はすべてのアプリケーションに自動展開される。

3. 相互運用可能なソリューション

サプライチェーンマネジメント機能群には、エンドツーエンドでの相互運用性とオーケストレーションを実装し、リアルタイムでの混乱やトラブル、イベントなどを可視化。さまざまな機能を同時に運用できるため、より迅速かつ的確な意思決定が可能に。

4. マルチエンタープライズネットワーク

メーカー、卸売、小売、運送業者など多様な取引先を一つのリアルタイムプラットフォームでつなぐことで、サイロ化やタイムラグを排除。あらゆる企業やレイヤーを横断する可視性、緻密な判断、スピーディな調整と協業を実現した。

5. 統合意思決定

個別システムをつなぐだけでなく、リアルタイムの情報を踏まえ、サプライチェーン全体にまたがる意思決定を一元的に統合して最適化。なお、実際にコグニティブソリューションでは、28種類のプランニングアプリケーションを一つの統合ソリューションに再構築している。

6. インテリジェント & エージェンティック

生成AI搭載の「Blue Yonder Orchestrator」と連携し、サプライチェーンに最適化されたインテリジェント機能が、「可視化(See)→分析(Analyze)→意思決定(Decide)→実行(Act)」の行程を高速かつ正確に処理。

7. 再構築されたエクスペリエンス

複雑な業務フローを踏まえたうえで、誰もが直感的に操作できるUI/UXデザインを実現。

上記の7つの要素が組み合わさることで、コグニティブソリューションは、単にそれぞれの工程で過去のデータを参照しながら人のコマンドに基づいて動くソリューションではなく、サプライチェーンの現場で起こりうるあらゆる状況を理解し、サプライチェーン全体に及ぼす影響やその結果を予測、最適なオプションを提供する「人とともに考え、働くことができるAIソリューション」となっています。

「限界を超えて」というタグラインに象徴されるように、Blue Yonderはコグニティブソリューションによって、これまでサイロ化されてきた既存のサプライチェーンシステムを一元化することで、サプライチェーンの未来を切り拓こうとしているのです。

人間と同じように意思決定するAIを作る「SADAループ」

事実、Blue Yonder CSO(最高戦略責任者)のウェイン・ユーシーは、コグニティブソリューションは単に高速化を追求するだけでなく、「不確実性への対応の精度」を高めることに主眼を置くソリューションだと説明。そして、コグニティブソリューションの主軸であるAI技術には、これまでの人間の意思決定プロセスが再現されていると言います。

SADAループ
SADAループ

その再現を支えるのが「SADAループ」。SADAとは、See(見る)、Analyze(分析する)、Decide(決定する)、Act(行動する)の頭文字を取ったもので、このモデルにより、コグニティブソリューションに備わっているAIは、情報の可視化・分析・判断・実行までをリアルタイムで最適化することが可能になっています。

出発点となる「See」では、Blue Yonderが保有するプランニング、輸送管理、倉庫管理を横断するサプライチェーン業界随一の統合データモデル、1,500社以上の取引パートナーをまたぐBlue Yonderネットワークを情報源に、リアルタイムでサプライチェーンのイベントとその影響を可視化。

次に「Analyze」として、SnowflakeとRelationalAIとの連携による独自のナレッジグラフコプロセッサ技術により、従来の10〜30倍高速かつ正確に根本原因を特定します。

その情報に基づき、「Decide」として、リアルタイムのデータに基づいて複数のシナリオを同時に実行・比較。

最後の「Act」では、人間、機械、AIエージェントが協調する環境でプロセスを自動化し、混乱への対応を数分以内に完了します。

上記の4つは連動して駆動〜改善をシームレスに繰り返す構造となっており、これによりコグニティブソリューションはリアルタイム最適化を可能にしているのです。

自律的に課題を解決する、5つのAIエージェント

現在のBlue Yonderの月間アクティブユーザーは13万に及び、毎週1.4テラバイトのデータを収集し、毎日250億件を超えるサプライチェーンインテリジェンス業務を処理しています。その処理数は、Googleの1日の検索数である85億件(※原稿執筆時)の3倍にも相当します。
 
このような豊富なデータと技術力をもとにしているからこそ、Blue YonderのAIは、自律的にリアルタイムであらゆる知見やオプションをお客さまに提供し、サプライチェーンを取り巻くあらゆる課題の解決に寄与することが可能になっています。
 
今回、ICON 2025では、コグニティブソリューションを支えるべく、それぞれ特定の業務を担う5つの「エージェンティックAIエージェント」も発表されました。

サプライチェーンの「限界を超える」――Blue Yonderが発表した、人とAIの協働を実現する次世代ソリューションとは?

1. Inventory Ops Agent(在庫管理向けエージェント)
未充足の需要を即座に解析し、BOM(部品表)の不整合やデータ品質の問題を特定。

2. Shelf Ops Agent(小売店の陳列棚管理向けエージェント)
大規模プラノグラムモデル(棚割りモデル、小売店舗などにおける商品の陳列レイアウトを視覚的に設計・最適化したモデル)を活用し、これまでにない高速処理と高精度で陳列棚を管理。

3. Warehouse Ops Agent(倉庫管理向けエージェント)
ピッキング、労務、在庫に関する当日の課題を網羅的にブリーフィング。

4. Logistics Ops Agent(物流管理向けエージェント)
該当の輸送計画に関するインサイトを提供し、潜在的なコスト削減を促進。

5. Network Ops Agent(ネットワーク管理:複数企業にまたがるSCMシステムの連携管理向けエージェント)予測検知と影響分析による継続的なネットワーク監視で、混乱を未然に回避。さらに、関税の影響を最小化するTariff Ops Agentの開発も進めており、デモを披露しました。

併せて、業界初のファインチューニング済みサプライチェーンモデルで世界初の大規模プラノグラムモデルでもある「First Fine Tuned Supply Chain Model」や、顧客が6〜12週間で組織のエージェントを確実に運用できるよう支援する「Agent Activation Advisory」を発表。さらには、Microsoftとの提携を強化し、Microsoft AI Co-Innovation Labsと協業してAIを用いた新たなサプライチェーンソリューションを共同開発する計画も公表しました。サプライチェーンの現場で、最新のAIを誰もが活用できる未来は、そう遠くなさそうです。

人と環境にやさしいサプライチェーンのあり方とは

サプライチェーンの「限界を超える」――Blue Yonderが発表した、人とAIの協働を実現する次世代ソリューションとは?

アンゴーヴは昨年の取材で、サプライチェーン改革によって、世界をより豊かで持続可能のものにする「サステナブル・アバンダンス」の夢を語りました(参照:Blue Yonder ダンカン・アンゴーヴCEOが明かす夢 AI×ネットワークで、人類に「豊かさ」をもたらすサプライチェーンに)。

そんな夢が実現へと近づいていることを示すかのように、ICON 2025では、顧客のサステナビリティ目標や法規制への対応ニーズの高まりに応える新たなソリューション「Blue Yonder Sustainable Supply Chain Manager」も発表されました。

「Blue Yonder Sustainable Supply Chain Manager」は、 ESGデータセットをBlue Yonderのデータモデルに統合し、コストやサービスレベルと並行してCO2排出量や廃棄物を測定・管理・最適化できるように設計。さらに、Pledge Earth Technologiesの事業買収により、企業の排出削減目標の測定・達成を支援する技術基盤を取り込むことで、より一層スピーディに「サステナブル・アバンダンス」への道を進んでいます。

サプライチェーンの「限界を超える」――Blue Yonderが発表した、人とAIの協働を実現する次世代ソリューションとは?
Blue Yonder CSO(最高サステナビリティ責任者) サスキア・ヴァン・ヘント

Blue Yonder CSOのサスキア・ヴァン・ヘントは「正確な排出量を容易に定量化できることは、お客さまのサステナビリティ施策にとって非常に大きな成果です。しかしそれだけにとどまらず、その情報を活用して何ができるかが重要です。物流業務が環境に与える影響をより深く把握することで、企業はコスト削減策を見出し、物流サービスプロバイダーの輸送排出量に対する説明責任を強化し、改善すべき部分を特定して対策を講じることが可能になります。Blue Yonderは常に、お客さまがエンドツーエンドでサプライチェーン全体のCO2排出量を可視化できるよう支援してきましたが、この新機能は、よりスマートで効率的、かつ環境にやさしいサプライチェーンを実現する道を切り拓くものです」と語りました。

サプライチェーンの「限界を超える」――Blue Yonderが発表した、人とAIの協働を実現する次世代ソリューションとは?
(左から)ヌンジオ・エスポシトCDO、ダンカン・アンゴーヴCEO

いかなるソリューションも、人が使いこなせなければ、現場の課題を本質的に解決できるとは言えません。 Blue Yonderは、環境はもちろんのこと、人への「やさしさ」も追求してきました。

Blue Yonderの最高デザイン責任者(CDO)であるヌンジオ・エスポシトは、ユーザーエクスペリエンス(UX)の再構築について、UX全体の大幅な向上に加え、より優れたコラボレーション機能を実装したと話します。

さらに、エスポシトは「人間とAIのコラボレーションこそが着眼点」と説明し、「コグニティブモバイルアプリ」という新たなカテゴリについても発表。これらのアプリには、倉庫管理、商品管理、陳列計画など、あらゆる場面に対応するものが含まれており、ユーザー自身で機能を追加したり、独自のアプリを開発したりすることも可能に。まさに「ヒューマンファースト」なUXを実現しました。

人間とAIが共創するサプライチェーンの未来に向けて

サプライチェーンの「限界を超える」――Blue Yonderが発表した、人とAIの協働を実現する次世代ソリューションとは?

2日目の基調講演では、原材料サプライヤーで混乱が起きた実際のシナリオを通じて、コグニティブソリューションをデモンストレーション。AIと人が協働するサプライチェーンの未来がいち早く提示されました。デモンストレーションの流れは、以下の通りです。

  1. 原材料サプライヤーに混乱が発生すると、Blue Yonderのコグニティブソリューションにより、担当者のモバイルデバイスとデスクトップのダッシュボードに即時通知が届きます。
  2. 同時に、AIエージェントがその混乱を需要・供給計画のコグニティブソリューションへエスカレーションし、根本原因・解決策の選択肢を特定。検討可能な最適の選択肢をレコメンドします。
  3. 意思決定が行われると、必要な原材料がすべて同時かつ期限内に到着するよう、倉庫納品スケジュールを再調整。原材料が新たに手配可能となります。
  4. これまで数日から数週間かかっていた混乱への対応が、わずか数分で完了しました。

Blue YonderがICON 2025で提示したビジョンは、単にAIがサプライチェーンを自動化する未来ではありません。人間の判断力とAIの高度かつスピーディな処理能力を組み合わせ、ともに考え、協調することで、いつ起こるかわからないサプライチェーンの混乱に即座に対応し、真に持続可能な成長を実現する――。そんなサプライチェーンの未来が近づいています。

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Blue Yonder ICON 2025の展示フロア

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