リニアからウェブへと変化するサプライチェーン ――『サプライウェブ 次世代の商流・物流プラットフォーム』書評

リニアからウェブへと変化するサプライチェーン ――『サプライウェブ 次世代の商流・物流プラットフォーム』書評
文:吉川清史

『サプライウェブ 次世代の商流・物流プラットフォーム』

小野塚 征志 著

日本経済新聞出版

1,980円(税込)

情報の流れで起きたリニアからウェブへの変化が「モノの流れ」にも

現代において、たいていの人は、何かわからないことがあると、PCやスマートフォンの検索エンジンで調べる。キーワードを入力して検索ボタンをクリックすると、多数のサイトへのリンクがリストアップされる。

では、インターネットや検索エンジンが普及する前はどうだったか。わからないことが出てきたときには、「知っている人に聞く」「図書館や書店に行って書籍や資料に当たる」といった行動をとっていた。

人に聞いたり、書籍や資料に当たる際の情報の流れは、「リニア(直線的)」である。一方、周知の通り、インターネットの情報は「ウェブ(クモの巣)」状に流れる。ウェブ状だからこそ、遠くの情報であっても、スピーディに届く。そのために、多数の検索結果が瞬時にリストアップできる。

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GettyImages

近年になって、情報の流れと同様にリニアからウェブへの変化が見られるのが「モノの流れ」である。『サプライウェブ 次世代の商流・物流プラットフォーム』(日本経済新聞出版)は、従来のチェーン(鎖)状に(リニアに)連なる「サプライチェーン」からウェブ状の「サプライウェブ」への変化を、多彩な事例を紹介しながら解説している。

著者の小野塚征志氏は、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て、2007年に欧州系戦略コンサルティングファームのローランド・ベルガーに参画。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントなどをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開している。

マスカスタマイゼーション、多品種少量生産への対応にサプライウェブが必要

小野塚氏が論じる「サプライウェブ」とは、メーカーを中心に調達、加工、製造、保管、輸送、販売をそれぞれ担当する固定的なプレーヤー(業者)がチェーン状に連なる従来の「サプライチェーン」が、不特定多数の調達先、納品先などと自由につながるように変化したものである。変化の背景の1つに「消費者の価値観の多様化」が挙げられる。

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(出典)『サプライウェブ 次世代の商流・物流プラットフォーム』(日本経済新聞出版)

価値観の多様化は、マスカタマイゼーションへのニーズを生む。マスカタマイゼーションとは、大量生産と、個別の細かいニーズに応じる「カスタマイゼーション(受注生産)」を両立させるものだ。たとえばコンピュータ販売大手のデルは、独自のビジネスモデルで、個別の顧客のニーズや好みに合った部品やスペックをカスタマイズしたモデルを販売している。

小野塚氏は、家電のマスカスタマイゼーションの可能性にも言及している。たとえば冷蔵庫であれば、設置場所のスペース、冷蔵庫の利用状況や家族構成などに即したサイズ、レイアウト、棚割にカスタマイズして提供する。中国の家電メーカー・ハイアールは、独自のマスカスタマイゼーション・システム“COSMO Plat”を導入し、まだ少量生産ながら上記のような試みを進めているそうだ。

マスカスタマイゼーション、あるいは多様化する消費者ニーズに対応した多品種少量生産を行う場合には、固定的なサプライチェーンでは対応しきれないケースが出てくる。細かなニーズに合わせるには、従来とは異なる部品や原材料の調達が必要となり、最適な取引先を都度探さなければならないからだ。

多数の調達先候補とウェブ状につながっておけるサプライウェブであれば、マスカスタマイゼーション、多品種少量生産にも容易に対応できる。

また、マスカスタマイゼーションでは、D2C(Direct to Consumer:メーカーから消費者への直接販売)が一般的だ。すると、サプライチェーンにあった保管、販売といったプロセスが不要になる。ウェブ状の経路上をショートカットするようなイメージだ。小野塚氏は、サプライウェブの要件の一つとして「本来必要のないプロセスがなくなること」を挙げている。

ドイツに拠点を持つ商用車メーカー・ダイムラーは、トラックやバス用アフターパーツ(交換用の部品)の製造を3Dプリンタに切り替える取り組みを進めている。需要に応じて都度3Dプリンタでアフターパーツを製造するようにすれば、在庫の保管というプロセスがいらなくなる。また、納品先の近くにデータを送り、その場で3Dプリントをすれば、輸送を最小化できる。

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(出典)ダイムラーの会社発表資料より作成

こうしたデジタルファブリケーションを活用したプロセスの“ショートカット”は、現状、個別メーカーの取り組みでしかない。しかし、この仕組みをサプライチェーンに連なる物流業者などと協力して行えば、サプライウェブへの進化が加速するのではないだろうか。



従来のサプライチェーンは、その中心となるメーカーが「最適化」を図っていた。チェーンを構成するプレーヤーは固定されており、メーカーと信頼関係で結ばれているため、最適化に悩むケースはさほど多くなかったと思われる。しかし、不特定多数のプレーヤーと自由に取引を行うサプライウェブでは、メーカーの手に負えなくなる可能性がある。

そこで、適切なプレーヤーとのマッチングなどを行い、サプライウェブ全体の最適化を行う、第三者のオープンなプラットフォームのニーズが出てくる。小野塚氏は、それを「サプライウェブプラットフォーマー」と呼び、物流や生産などのプロセスにおいて既にサービスを始めている、いくつかの事例を紹介している。

たとえば、2017年創業の日本のスタートアップであるCADDiは、板金・切削加工に関して発注者と加工会社のマッチングサービスを提供している。発注者が3DCADの図面データをアップロードすると、独自開発の原価計算アルゴリズムで自動解析し、2営業日内に見積を提示。この見積は、日本全国に存在する提携加工会社の中で最適な発注先に見積を依頼した場合の価格となる。

CADDi提携加工会社には、各々の会社が得意とする加工分野の案件のみが紹介される。加工会社は、既に決まっている発注価格を見て、利益を確保できる案件を選べばよい。発注者にとっては、案件ごとに多数の加工会社から最適な発注先を選んでもらえる。加工会社からしても、最適な条件で新規受注ができる。まさしく、不特定多数との自由な取引を拡大する、サプライウェブプラットフォーマーと呼ぶにふさわしい企業だ。



チェーンからウェブへの不可避な 変化に各企業はどう対応すべきか

ところで、そもそもなぜ消費者の価値観は多様化したのだろうか。よく言われるのは、以前は商品やサービスのバリエーションが限られており、最大公約数の価値観を満足させればよかった。しかし、技術革新などのおかげで新商品・新サービスが増えると、それに応じて消費者ニーズが多様化し、提供側も差別化のために多様化した価値観に対応するようになった、という説明だ。

この説明は正しいのだろう。しかし、おそらく、最近になって多様化したのではなく、いつの時代にも「多様な価値観」は存在したのだと思う。ただ、それに対応する方法がなかった。また、多様なニーズが顕在化していなかったために、メーカー側からは「マニアックな少数のニーズ」としか認識されず、重視されてこなかった。

以前は、そうしたマニアックなニーズを満たすのには、レアな商品を扱う専門店に行かなければならず、情報の収集も困難だった。ところが現代では、インターネットの発達・普及で情報へのアクセスが容易になり、アマゾンをはじめとするECショップがロングテールの品揃えをすることで、レアな商品も容易に手に入れられるようになった。



そうすると、メーカー側も多様なニーズに気づき、対応するようになる。デジタル化により多品種少量生産体制もとりやすくなった。それに伴い、サプライチェーンは「サプライウェブ化」せざるを得なくなる。

リニアなサプライチェーンからサプライウェブへのシフトは、情報化・デジタル化に伴う不可避な変化の一つといえるのではないか。

ただし、こうした変化が一気に進むとは考えにくい。現場のSCM担当者は、徐々に現れはじめたサプライウェブやサプライウェブプラットフォーマーの情報を集め、その特徴や課題を理解するところから始めるべきだろう。

これまでの、ほぼ固定されたプレーヤーを前提とした管理とは異なる手法が必要となるのは間違いない。不特定多数の中から、最適なプレーヤーを選び出す選択眼を磨くともに、それらのプレーヤーたちがもっとも効率的に動ける「流れ」を、都度考案できるようにしておかなければならない。



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(出典)『サプライウェブ 次世代の商流・物流プラットフォーム』(日本経済新聞出版)

いずれにせよ、サプライウェブに関わるのであれば、誰しもが変革を恐れてはいけない。ぜひ本書から「変革のヒント」を読みとってほしい。

情報工場 SERENDIP 編集部 チーフ・エディター 吉川清史)