【新旧CEO対談】パナソニック コネクトはなぜ変われたのか? 樋口が変革した9年間と、新CEOセインが描く未来

【新旧CEO対談】パナソニック コネクトはなぜ変われたのか? 樋口が変革した9年間と、新CEOセインが描く未来
取材・文:太田 百合子、写真:池村 隆司

パナソニック コネクトは2026年4月、新CEOにケネス・ウィリアム・セイン(ケン・セイン)を迎えます。セインは2019年からパナソニック アビオニクスのCEOを務めており、今後も同職を継続しつつ、パナソニック ホールディングスのコネクト事業担当 CEOとして、パナソニック コネクト(株)、Blue YonderやZetesなどを統括するパナソニック コネクトグループを率いていきます。

今回は「新旧CEO対談」として、9年間CEOを務めた樋口泰行がパナソニック コネクトの変革を振り返ると同時に、セインのパーソナリティやこれまで手掛けた仕事、そして今後どんな姿勢でリーダーとしての職務に取り組むのかを語り合いました。

AI記事要約 by ConnectAI

※ConnectAIは、パナソニック コネクトが社内で活用している生成AIサービスです。

  1. ハードウェアからソリューションへの事業立地改革
    樋口CEOは模倣困難な領域へ注力し、顧客の現場改革に深く入り込むビジョンを掲げました。事業売却や工場閉鎖など断腸の思いで構造改革を断行した結果、リカーリング比率とソリューション人員比率が大幅向上。コロナ禍後にV字回復を実現し、真の変革を遂げました。
     
  2. 「人を大切にする」カルチャー変革の実践
    組織の行動・思考パターンを変えるため、リーダー自らがお手本を示し、個々が自律的に判断できる文化を追求。「人は腹落ちし、認められ、尊重されたときに動く」という原則のもと、称賛と失敗の許容、現場への寄り添いを重視したマインドセット改革を推進しました。
     
  3. セイン新CEOの「4つの柱」で描く未来
    コンサル・ボーイング・航空機内エンタメ事業で培った経験を持つセイン氏は、①共通理解による成功②持続的改善③行動による信頼構築④チームを支えるリーダーシップを指針とします。伝統を尊重しつつ変化を恐れず、ワンチームでの協働により顧客・会社・社員全てが誇れる未来を創造します。

「事業立地改革」を断行。ハードウェアからソリューション軸へ

写真左が樋口泰行、写真右がケン・セイン

樋口さんがCEOを務めた9年間、どのような改革を行ったか、改めて教えていただけますか。

樋口:多くの企業トップが社員に「変われ」と言いますが、なぜ変わらなければいけないのか、変わるとどんな姿になるのかを、はっきりと言語化しているところは少ないと思っています。企業が変革するためには、どの難易度のものから着手するかといった「優先順位のデザイン」が必要ですが、何よりもリーダー自身の「変わるんだ」という覚悟と、リーダーシップを持つことが不可欠です。

その上で、パナソニック コネクトの変革は「戦略」と「カルチャー」の2本柱で実行してきました。

「戦略」の転換点は、ハードウェア事業の「事業立地」の考え方を変えたことです。かつてのハードウェア事業は、製品のコモディティ化が進み、中韓企業が台頭する厳しい状況下にありました。ハードウェア事業の事業立地改革を行うにあたって、部品点数が多く模倣ができないものや、アナログ的な要素が残っているもの、ソフトウェアやサービスを付加できる領域へと注力しました。一方で、集積度を争うだけのものや、国策的な投資がされている分野からは距離を置くなど、選択と集中も一貫して行ってきました。

常にその中心にあったビジョンは「単なる製品提供だけでなく、お客さまの現場を改革するプロセスに深く入り込む」です。お客さまと長期的な関係を築いて生産性を向上させ、リカーリング(継続)収益を得やすくする。また、新規クラウドサービスの開発やM&Aで加わったソフトウェアとの相乗効果を図りるなど、模倣されにくい事業構造へと舵を切りました。

同時に、断腸の思いで事業売却や工場の閉鎖、人員の適正化も行ってきました。こうした構造改革を断行してきたからこそ、現在の事業基盤があります。その結果、新型コロナ禍で大打撃を受けた後の業績はV字回復しました。単に利益が増えただけでなく、リカーリング比率やソリューションに関わる人員比率が大幅に向上しており、まさに変革を遂げたと言えます。

「人は腹落ちし、認められ、尊重されたときに動く」

9年間CEOを務めた樋口泰行

こうした戦略転換を実行するための土台となった「カルチャー」は、どのように変革してきたのでしょうか。

樋口:カルチャーとは、組織の中で当たり前になっている行動・思考パターンの集合体。これを変えるには、あるべき理想の姿を言語化して、リーダーが状況に応じてお手本を示すことが重要です。

逆にカルチャー改革がうまくいかないのは、忖度や過度な仲間意識、上下関係など、旧来の大量生産・販売の成功体験を引きずった日本の経営スタイルから脱却できない状況が「ファースト・ペンギンになりたくない」という人間の性(さが)を増幅するためです。そこでパナソニック コネクトでは、まずリーダーのマインドセットを変え、個々が自律的に判断して動けるカルチャーを追求してきました。

その根底にあるのは「人を大切にする」という当たり前の姿勢です。私は最近、デール・カーネギー『人を動かす』の内容を改めて思い出しました。人は指示では動かない。腹落ちして認められ、尊重された時に動く。これこそが基本です。称賛し、失敗を許容し、現場の気持ちに寄り添う。この「人を大切にする」という基本を忘れずに、これからも変革を続けていきたいと思います。

飛行機の操縦が趣味。セインのキャリアと“横顔”とは

ケン・セイン

そうした樋口さんが信頼を寄せ、バトンを託したのが、ケン・セインさんです。セインさんはこれまでどのようなキャリアを積み重ねてきたのか、教えてください。

セイン:私はビジネススクール卒業後、A.T.カーニーで10年間、輸送・物流企業の戦略コンサルティングに携わり、その後ボーイングの民間航空サービス部門に15年間勤務しました。

A.T.カーニーでは、複雑なビジネス課題を分析して解決策を導き出す経験を積み、大局を見つつ、変革のレバーがどこにあるかを理解する術を学びました。またボーイングでは、安全が最優先される業界特有の精密さと連携を肌で感じました。戦略策定から、ソフトウェアやデジタル、アナリティクスといった実行・運用の役割へと移ったことが、非常に大きな転換でした。

直近の6年間はパナソニック アビオニクス(PAC)のCEOとして、航空機用の機内エンターテインメントシステム、コンテンツ、通信サービス、メンテナンス事業をリードしてきました。世界中の乗客が年間4,000億分(約76万年)もの時間をパナソニックのスクリーンの前で過ごしています。それだけ多くの人と関わる事業に携われるこの仕事は、非常に魅力的です。

セインさんの趣味やご家族、そして日本への印象についてはいかがですか?

セイン:私はシカゴで生まれ育ちました。父は弁護士、母は元教師で、3人兄弟の長男です。双子の妹は今もシカゴに住んでいます。現在は妻と、高校生の息子・娘とカリフォルニアに住んでいます。

趣味は自家用飛行機の操縦です。30年以上前からライセンスを持っています。週末に空を飛ぶことは、自由を感じ、視点を変えて頭をリセットできる最高の方法です。

私はこれまで、日本の航空関連企業の方々とも仕事をしてきました。日本の職人技、品質への献身、そして深いコミュニティ意識はとても魅力的ですし、長期的なビジョンを有していることや、いわゆる「カイゼン」、そして集団責任を重んじる文化を深く尊敬しています。

樋口さんから見て、セインさんの魅力はどのようなところにありますか?

樋口:セインの面接で初めて会った日のことを、今でも鮮明に覚えています。すぐに「この人が必要だ!」と直感し、気がつけば私の方からパナソニック コネクトを売り込んでいたんです。

これまでヒューレット・パッカード、Apple、Microsoftといった、米国の名だたるグローバル企業のトップ経営者たちとも関わってきましたが、セインの持つ「誠実さ」「まじめさ」「プロフェッショナリズム」は、類を見ないほど傑出しています。

セイン:面接のことはよく覚えています(笑)。私がPACに加わってわずか数カ月で新型コロナのパンデミックが起こりました。航空業界はかつてない打撃を受けましたが、樋口さんとパナソニック コネクトからの多大なサポートに心から感謝しています。

PACはコロナ禍を生き抜いただけでなく、製品ポートフォリオを刷新した上で次世代機内エンターテインメントシステム「Astrova(アストローバ)」を導入し、業界で最も早く採用される製品へと成長させました。困難な時期に「正しいこと」の遂行に集中した結果、PACはより強いチーム、より強いビジネスへと生まれ変われたことを誇りに思います。

伝統を尊重しつつ、変化を恐れずに進化を

写真左が樋口泰行、写真右がケン・セイン

セインさんがリーダーとして大切にしていることは何でしょうか?

セイン:私はリーダーの指針として「4つの柱」を大切にしています。

1つは「人は共通の理解を通じて成功する」。お客さまや現場の従業員の声に注意深く耳を傾け、理解した上で行動することを大切にしています。

次は「持続的な改善が永続的な結果を生む」。急激で破壊的な変化よりも、毎日の思慮深い積み重ねが大きな変革につながると信じています。これは日本の「カイゼン」の考え方に通じます。

3つ目は「信頼は言葉ではなく行動で築かれる」。一貫性、公平性、透明性を持って接することで、日々の仕事を通じて信頼を育みたいと考えています。

最後は「リーダーシップの責任はチームを支えることにある」。私の役割はチームの成功を助けることです。皆が能力を発揮し、成長できる環境とカルチャーを提供します。

樋口:私とセインのリーダーシップスタイルには多くの共通点があると感じます。「人を大切にする」「継続的な改善」という考え方は、まさに私が大切にしてきたことです。ケンは、われわれが築いてきた強固な基盤のもと、パナソニック コネクトをさらに高いレベルへ引き上げてくれる、正しいリーダーだと確信しています。

最後に、セインさんが今後もパナソニック コネクトグループの変革を続けていく上での決意を教えてください。

セイン:私の最優先事項は、社員の皆さんがどのように働き、何を大切にしているか、そして私がそれをどうサポートできるか理解することです。

私たちの強みは「ワンチーム」として動くことから生まれます。すべての役割が重要であり、最高の結果は共通の目的と信頼、そしてコラボレーションから生まれます。また日々の小さな改善の積み重ねが、永続的なインパクトを創り出します。

すばらしい伝統を尊重しつつ、変化を恐れずに進化していきましょう。お客さまのため、会社のため、そして私たち自身のために、皆で誇れる未来をともに創り上げたいと願っています。
 

写真左がケン・セイン、写真右が樋口泰行
2026年2月に実施された定例の全社会議「ALL HANDS MEETING」でも、お互いの改革への思いを語り合った

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