属性×価値観×スキルの「交互作用」とは。白河桃子氏と考える、DEIの真のポテンシャル

属性×価値観×スキルの「交互作用」とは。白河桃子氏と考える、DEIの真のポテンシャル
取材・文:山本 千尋、写真:川本 聖哉

DEIは企業価値にどのような影響を与えるのか──。パナソニック コネクトは明治大学との共同研究を通じてこの大きな問いに向き合い、「社員の『価値観』と『スキル』の多様性が組織パフォーマンスを向上させる」ことを科学的に解明。その成果はネイチャー系ジャーナル『Humanities and Social Sciences Communications』(Springer Nature)にも採択されました。

今回はその研究内容を足がかりに、ジャーナリストで昭和女子大学客員教授の白河桃子氏をお招きし、パナソニック コネクトCHRO(最高人事責任者)の新家伸浩と、デザイン&マーケティング本部 デジタルカスタマーエクスペリエンス統括部長で本研究の共同研究者でもある関口昭如の3名で鼎談を実施。組織パフォーマンスを向上させるDEI推進のハウツーや人的資本経営の未来像を語り合いました。

白河 桃子氏

ジャーナリスト、作家、昭和女子大学客員教授、iU情報経営イノベーション専門職大学(iU大学)特任教授、千里金蘭大学客員教授

商社、外資系企業勤務を経て執筆活動に入る。2008年に中央大学の山田昌弘教授と『「婚活」時代』を上梓し、婚活ブームの火付け役に。内閣官房「働き方改革実現会議」や内閣府男女共同参画局「男女共同参画会議専門調査会」の委員などを歴任。少子化、働き方改革、ダイバーシティなどをテーマに活動している。専門は人的資本。

新家 伸浩

パナソニック コネクト株式会社 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント CHRO 兼 人事総務本部 マネージングダイレクター、最高健康責任者

パナソニックグループで一貫して⼈事を担当。主にBtoBソリューション領域にて、⼈事戦略、⼈事制度、労使関係、関係会社への助成、採⽤、HRBP等のミッションで事業体の変⾰をリード。2021年より現職。

関口 昭如

パナソニック コネクト株式会社 デザイン&マーケティング本部 デジタルカスタマーエクスペリエンス エグゼクティブ/統括部長 兼 現場ソリューションカンパニー ヴァイスプレジデント、博士(工学)、日本マーケティング協会理事

総合電機メーカーに入社後、複数のBtoB製造企業でデジタル領域を中心としたグローバルマーケティング、デマンドジェネレーション、カスタマーエクスペリエンスを牽引。現在はパナソニック コネクトにて、デジタルを活用した顧客価値起点のマーケティング変革を進め、全社横断でのデジタルエクスペリエンス向上にも取り組みつつ、国立大学大学院等で教鞭も執っている。

AI記事要約 by ConnectAI

※ConnectAIは、パナソニック コネクトが社内で活用している生成AIサービスです。
  1. DEI推進の新たな方程式を科学的に実証
    パナソニック コネクトと明治大学の共同研究により、「属性」の多様性に加えて「価値観」と「スキル」の多様性を掛け合わせることで、組織への帰属意識と仕事の意義が高まることが科学的に証明された。

  2. 制度を機能させる「健全なカルチャー」の重要性
    どれほど優れたDEI制度も、健全な企業カルチャーがなければ機能しない。パナソニック コネクトはオフィス移転やフリーアドレス化など物理的変化を伴うカルチャー改革を実行してきた。白河氏は、男性育休の推進を例に挙げ、余剰資金をDXや業務改善に投資することで、制度と現場の両輪で変革を実現するプロセスを紹介した。

  3. 10年後を見据えた「Be Global」な組織づくり
    バブル世代の退職と労働人口減少を見据え、あらゆる世代が活躍できる組織づくりやマネジメント層の育成が急務。パナソニック コネクトでは、「Manager2.0」プロジェクトで新たな組織マネジメントを推進し、多様な人材がそれぞれの力を最大限発揮する「Be Global」な状態をめざしている。

DEIの真価を引き出す方程式。「属性」だけではない多様性とは

まず、今回の研究を始めたきっかけについて教えてください。

関口:もともとDEI推進は、パナソニック コネクトが経営戦略の柱の1つに位置付けて注力してきた領域です。その効果を可視化できれば、社会全体のDEIを加速させる一助になる。そんな想いもあり、「DEI推進活動が、企業価値やブランディングにどのような影響を与えるのか」を科学的に証明しようと、その内容に関心を持ってくれた明治大学商学部の加藤拓巳准教授、当時当社のDEI推進室メンバーで、理学の博士号を持つ門村亜珠沙さんの3人で共同研究を始めました。

これまでの多様性に関する議論では、年齢・性別・国籍といった「目に見える属性の多様性」に焦点があたることが多く、他の側面との関連性が軽視される傾向にありました。この傾向が、多様性がもたらす複雑な影響を理解する上での障壁であると考え、今回の研究では、パナソニック コネクト社員3,000名にアンケート調査を実施。社員の多様性を「属性(年齢・性別・国籍等)」「価値観」「スキル」の3つに分類し、それらの交互作用が組織にもたらす影響を評価しました。その結果、属性の多様性に価値観とスキルの多様性を掛け合わせると、組織への帰属意識と仕事の意義が向上することが明らかになったのです。(参考:明治大学との共同研究成果がネイチャー系ジャーナルに採択 ~社員の「価値観」と「スキル」の多様性が組織パフォーマンスを向上させることを科学的に実証~

属性×価値観×スキルの「交互作用」とは。白河桃子氏と考える、DEIの真のポテンシャル

白河:私も以前から「企業のDEI戦略には、属性の多様性の確保だけでは不十分」だと訴えてきましたので、このように科学的に証明されたことは非常に重要かつ背中を押される思いです。現在はトランプ政権発足などで企業のDEI推進に逆風が吹いており、グローバルな学術誌での論文採択はうれしいですね。

属性×価値観×スキルの「交互作用」とは。白河桃子氏と考える、DEIの真のポテンシャル
パナソニック コネクト デザイン&マーケティング本部 エグゼクティブ 関口昭如

先ほど白河さんがおっしゃったように、2025年はアメリカを中心にDEIへのバックラッシュが起こりました。日本企業のDEI推進の現状は、いかがでしょうか。

白河:2025年3月のロイター企業調査(参考:3月ロイター企業調査:「変更なし」が77%、多様性など「DEI」の取り組み)によると、日本企業の77%が「多様性推進の方針は変わらない」と回答しています。ただ、日本はジェンダーの多様性という最初の一歩が非常に遅れています。女性管理職比率が4割のアメリカとは、そもそもの環境があまりにも違うのです。たとえば、日本では女性初の首相就任が話題になりましたが、女性の政治家が多数の国では「女性」という属性ではなく、その人の施策や考え方など、まさに今回の研究での「価値観」「スキル」の側面が取り上げられています。

一方で、今回証明された「属性の多様性を担保するだけでは不十分」はその通りですが、スキルや価値観の多様性のみを重視すると、それはそれで「男か女かは関係ない」「要は実力」といった、現状の構造をもとにした格差を無視した乱暴な議論に逆戻りしかねません。

こうした背景を踏まえ、まずは日本政府も掲げている「女性管理職比率3割」の確保を推奨します。企業であれば、そうした属性の多様性の担保を前提に、それぞれの社員の価値観やスキルの多様性の掛け合わせ方に目を向ける。このステップこそが、企業価値を高めるDEI推進の正攻法だと考えています。

属性×価値観×スキルの「交互作用」とは。白河桃子氏と考える、DEIの真のポテンシャル
ジャーナリストで昭和女子大学客員教授の白河桃子氏

新家:まったく同感です。我々も、2035年までに女性管理職比率30%の達成を目指して組織体制を整備したり、新卒入社の男女比率を半々に近づけたりと、ジェンダーギャップ解消は一丁目一番地として取り組んでいます。

白河:「なぜダイバーシティを推進するのか」という問いに対し、近年多くの経営陣が「大企業病の打破」をその理由に挙げています。大企業病の本質は、組織の「サイロ化」にあると言えるでしょう。歴史ある大企業や行政機関ほど、組織が縦割りとなり、情報や価値観が内向きに閉ざされてしまっているのです。

若年女性の地方離れやハラスメントを巡る問題なども、「男性中心のサイロ化」という構造的な問題が背景にあります。組織構造を見直して多様性を担保することが、こうした袋小路を脱する唯一の道なのです。

制度・理念を機能させる土台は「健全なカルチャー」

パナソニック コネクトは前身であるコネクティッドソリューションズ社(以降、CNS)の時代からDEI推進に注力されてきましたが、効果的なDEI推進には何が重要だとお考えですか。

新家:徹底したカルチャー改革は必須ですね。CEOの樋口は2017年4月にCNSの社長に就任してから、「カルチャー改革」を経営戦略の最重要テーマに掲げてきました。

大事なのは、ただのスローガンで終わらせないこと。DEI推進でも、単に「多様性が大事だ」と唱えるだけでは意味がありません。現場でのコミュニケーションや働き方まで変えることが不可欠です。そうした意向もあって、2017年10月にはCNS本社を現在の浜離宮オフィス(東京都中央区銀座)に移転してフリーアドレス化したり、社長室をなくしたりと、オフィス改革を断行しました。

現在もカルチャー改革は進行中です。全社員が「thriving:スライビング」(自律的)な状態でいられるよう、取り組みを進めています。

属性×価値観×スキルの「交互作用」とは。白河桃子氏と考える、DEIの真のポテンシャル
パナソニック コネクト CHRO 新家伸浩

関口:「どれほど優れた戦略があっても、その土台となる健全な企業カルチャーがなければ機能しない」と樋口は何度も口にしていましたね。社長が社員フロアを歩いていることに、最初は落ち着かないと感じる社員もいましたが、徐々に当たり前の風景になっていきました。

白河:おっしゃる通り、どんなに優れた制度やスローガンを用意しても、健全なカルチャーがなければ失敗してしまいます。たとえば、育休制度があってもそれを社員が気軽に使うことができないカルチャーでは、制度として機能しているとは言えません。また、オフィス移転など物理的な変化もとても重要です。行動様式が変わると、その組織の思考様式も自然と変わりますからね。

白河先生は、制度が機能するカルチャーをどのように醸成できるとお考えですか。

白河:男性育休を例にとってみましょう。育休取得者が増えれば、当然人材が少なくなり、職場には負荷がかかります。その負荷をきっかけに生産性が低下するなどすれば、改革は失敗に終わってしまいます。

そこで、どうすればいいか。育休中は一般的に、企業からの給与は支払われません。その余剰分を原資に、業務負担を軽減するDXを推進したり、特に負荷が増える社員へのボーナスを増やしたり、テンポラリースタッフを採用したりするのです。男性育休による職場の分断を防ぐだけではなく、社員の働き方や価値観の変化、ひいてはカルチャー変革が期待できます。

一方、育休で子育てを自分ごと化した男性は、新たな価値観を企業にもたらしてくれるかもしれません。育児と仕事の両立の大変さを理解すれば、女性が働きやすくなる企業や社会の実現につながります。男性育休を推進したら、女性活躍がより進んだという企業も多くあります。

属性×価値観×スキルの「交互作用」とは。白河桃子氏と考える、DEIの真のポテンシャル

新家:10年後の企業を考えると、男性の割合が高いバブル世代の人材がいなくなります。現在とは企業環境も、社員の価値観も大きく変わるわけです。制度の見直しやDXによる生産性向上はもちろん、今のDEIの取り組みをさらに進化させないといけないという危機感をひしひしと感じています。

他者との対話で「Be Global」へ

10年後を見据えて新家さんが取り組んでいる施策はありますか。

新家:10年後には現在のマネージャー層が入れ替わりますが、その次の世代には「マネージャーになりたくない」という価値観を持つ社員も少なくありません。どうしてもこれまでの日本企業の働き方から「マネージャー=多忙で負担が大きい」という固定観念が定着してしまっているからです。

そこで、我々はマネージャー等の課題を抽出したうえで、組織マネジメントのフォーカスポイントを「1.戦略の明確化、2.権限の委譲・分散、3.対話ベースの共創」の3つに定めました。このようにマネージャーの定義そのものを見直し、新たな組織マネジメントの在り方を推進するプロジェクトを「Manager2.0」と名付けて2025年に始動。「Manager2.0」の実践により、社員一人ひとりの多様な力を引き出し、組織全体でインパクトを生み出すことに挑戦しています。

まさに「属性」ではなく「価値観」や「スキル」に基づいて、あらゆる世代が活躍できる組織づくりです。若手に対する「まだ早い」、シニアに対する「もう遅い」は禁句。年齢という壁を取り払い、一人ひとりの可能性を最大限に引き出すことが不可欠だと考えています。

属性×価値観×スキルの「交互作用」とは。白河桃子氏と考える、DEIの真のポテンシャル

白河:おっしゃる通りです。10年後はシニアや外国籍の方々に活躍していただいたとしても、労働力不足は避けられません。しかし、真に深刻なのは人材の「数」ではなく、多様な人材を束ねられる「マネジメント層の不足」です。柔軟な価値観を持ったマネジメント層の育成は急務です。

日本はジェンダーだけでなく、年齢や経験値のダイバーシティも遅れています。伝統的な日本企業と、ベンチャーや外資系企業との一番の違いは、大きな仕事を任される年齢です。早くから経験を積んだ人たちがその知見を評価され、若いうちから意思決定層、あるいは経営層にスライドしていくことが理想的ですね。

今回の研究結果は、パナソニック コネクトのどういった業務に活かせそうですか。

関口:これまでの取り組みの効果をより高めることなどに期待できます。たとえば、3年前から取り組んでいる「N1分析」はまさに、「価値観とスキルの多様性を掛け合わせる」業務の好例です。

N1分析は、統計調査とは真逆のN=1を深掘りするマーケティング手法で、既存顧客などにインタビューしたあと、マーケティングや営業、システムエンジニア、カスタマーサポートなど、職種や立場が異なる担当者が集まり、1時間のインタビューに対して約10倍の時間をかけて分析していくものです。部門横断で話すと、同じ部門内では出なかった意見が生まれることも多く、とても有意義な顧客分析ができます。多様性がもたらすイノベーションの力を実感しますね。

属性×価値観×スキルの「交互作用」とは。白河桃子氏と考える、DEIの真のポテンシャル

白河:どの部署の人もやりがいを感じて、垣根を越えた関係性づくりもできる。しかも、経験値やスキルがバラバラであるほど深い洞察に結びついて企業価値にも貢献するので、とても素晴らしい取り組みですね。

最後に、DEI推進を目指す企業の経営層や担当者に向けてメッセージをお願いします。

関口:マーケティングとDEIはとても親和性があり、掛け合わせれば相乗効果が生まれます。今回のDEI研究も、私からするとデジタルマーケティングの一環でもありました。

研究によってDEI推進がビジネス成長や企業価値の向上につながることを検証しましたが、ゆくゆくは各企業のマーケティング活動のフィードバックに組み込んで、PDCAを回していきたい。今回の研究結果を他社のみなさんにもぜひ興味を持っていただき、こうした取り組みを共に進める仲間を増やしていければと思います。

新家:テクノロジーの進化や日本の労働人口の減少といった外部環境の変化にも対応しながら競争力を高めていくには、世界の市場動向やテクノロジーの変化を捉え、学び、柔軟に取り込む力が求められます。こうした背景のもと、異文化で多様な人材が集う環境で、それぞれの力を最大限発揮している状態を我々は「Be Global」と名付け、グローバルケイパビリティの強化に取り組んでいます。

属性×価値観×スキルの「交互作用」とは。白河桃子氏と考える、DEIの真のポテンシャル
市場の変化を柔軟に取り込み、競争力を高めるため、多様な人材が個を活かし合う「Be Global」な状態を目指す

カルチャー変革で重要なのは、異なる者同士の対話です。「属性」「価値観」「スキル」という3つの多様性を認め、お互いをリスペクトした上で共創関係を築いていけるよう、対話の質を高めていくことがこれからの企業には求められると思います。私たち一人ひとりが一歩踏み出すことで、共創関係は組織を超え、社会全体へと大きく広がっていきます。よりイキイキと働く日本企業をともに目指して、頑張りましょう。

白河:今後、さらに人手不足が進んでいけば、どんな日本企業もこれまでの構造を変えざるを得ません。男女比があまりにも偏っている場合はやはり、「属性」の多様性から対処することをファーストステップとしていただきたいです。もちろんただ“数”を増やすだけではなく、心理的安全性を確保しながらサポートやエンパワーメント、カルチャーの刷新を続けていくことが重要です。ぜひこれからの成長のためにも、今のうちから自社の多様性を見直してみてはいかがでしょうか。

属性×価値観×スキルの「交互作用」とは。白河桃子氏と考える、DEIの真のポテンシャル

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