流通ビジネス専門誌の編集者が語る!小売業の最前線で地域を支える「ローカルスーパー」の魅力とは(1)
全国に2万店舗以上あると言われるスーパーマーケット(スーパーマーケット統計調査事務局調べ )。そのなかでも、特定の地域でのみ店舗展開をする「ローカルスーパー」における、地域課題に対応した独自の店舗運営が密かに注目を集めている。 大手との価格競争、EC利用の増加、人口減少による働き手不足など、さまざまな課題と向きあいながら、「地方流通の要」として機能しているローカルスーパーの現場。生活者のニーズに最前線で応え続けるローカルスーパーでは、いま何が起きているのか。流通ビジネス専門誌『ダイヤモンド・チェーンストア』を発行する株式会社ダイヤモンド・リテイルメディアのデジタルマーケティング室 室長・小平田康寛氏と『ダイヤモンド・チェーンストア』副編集長・雪元史章氏に話を聞いた。
『ダイヤモンド・チェーンストア』
ダイヤモンド・リテイルメディア社(東京・千代田区)が年22回発行する流通ビジネス情報誌。徹底した現場取材とデータ主義で、流通業のマーケティング&イノベーションにつながるビジネスヒントを届けている。前身の『ダイヤモンド・エイジ』から数えて、今年で創刊49年目を迎える。オンラインストアはこちらから。
上位10社の売り上げシェア40%以上。寡占化が進むスーパーマーケット市場
――そもそも、どんなお店を「ローカルスーパー」と呼ぶのでしょうか。
雪元:スーパーマーケットは生鮮食品や日用品を扱う「食品スーパー」と、それらに加えて衣類や家電、家具なども扱う「総合スーパー」の2つに大別されます。後者は「ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア」(GMS)とも言われ、イオン、イトーヨーカドー、ダイエーなどの大型店がその代表です。
今回のテーマである「ローカルスーパー」は、「全国展開していない、地域密着の食品スーパー」と広義にとらえてください。じつは「ローカルスーパー」には、店舗数や売場面積、従業員数などによる明確な定義はありません。そのため、家族経営の単独店から、多くの社員やパートを抱えたチェーン店まで、その経営規模はさまざまです。
たとえば、山梨県の八ヶ岳の麓で1店舗を営業している「ひまわり市場」も、京都、滋賀、大阪、兵庫などで115店舗を展開する「フレスコ」も、地域密着の食品スーパーですから、『ダイヤモンド・チェーンストア』編集部ではローカルスーパーと見なしています。
――なるほど。都心にある小さな食品スーパーも、地域に根ざした「ローカルスーパー」というわけですね。しかしここ数年、首都圏では大手チェーンの食品スーパーの出店が加速しているように感じます。業界の動向について教えてくだい。
雪元:「ダイヤモンド・チェーンストア」で調査したところ、2011年度の食品スーパーの市場規模は14兆1696億円、2016年度は15兆9446億円で、5年で約1兆8000億円も増大しました。これには、全国展開する大手が積極的にM&A(合併・買収)を仕掛けるとともに組織再編を進め、経営規模拡大に努めているという背景があります。
とりわけ国内小売最大手のイオングループが急速に拡大しており、売上高は約1兆5600億円(2011年度)から2兆8900億円(2016年度)とほぼ倍増、市場シェアは約18%を占めるにいたりました。ここ十数年で各地のスーパーを次々と吸収し、2015年には傘下の「マックスバリュ関東」「マルエツ」「カスミ」の3社を経営統合して共同持株会社のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスを設立。こうした店舗を含め、いまやイオングループ全体で国内に2000店舗の食品スーパーを展開しています。
小平田:2位以下は、セブン&アイ・ホールディングス、ライフコーポレーション、アークス、ヤオコー、バローホールディングス……と続き、これらの会社も軒並みM&Aに積極的です。上位10社の合計シェアは、2011年から10%増加し、全体の約43%を占めています。「セブンイレブン」「ファミリーマート」「ローソン」の3社で市場シェア9割を占めるコンビニ業界ほどではありませんが、スーパー業界も大手による寡占化が進んでいるというのが現状です。
地方色豊かな売場が最大の魅力。一般に流通していない商品が並ぶことも
――そのような流れに逆らうように、さまざまなメディアで特集されるなど、ローカルスーパーの人気が高まってきています。なぜでしょうか?
雪元:やはり、その土地ならではの食材・食品を豊富に取りそろえている点が、消費者に評価されているのではないでしょうか。日本は地域性が豊かな国で、「食」もじつにバラエティに富んでいます。これだけネットで情報が溢れている時代でも、一般に知られていない食材・食品が各地にまだまだある。そうした商品を地元の生産者やメーカーから直接仕入れられるのが、ローカルスーパーの最大の強みだと思います。
たとえば、前述した「ひまわり市場」は、ワイン王国・山梨にあることから、地元産のワイン売場を充実させています。バイヤーが一軒一軒、ワイナリーを訪ね歩き、市場に流通していないレアなワインを揃えている。青果も直接、生産者から仕入れており、鮮度バツグンの野菜や果物が安値で手に入れられると、県外からまとめ買いにやってくるお客さんも少なくないそうです。
また、POPかつユーモラスな商品説明を書き添えたり、売場店員にニックネームをつけて紹介したり、さらに店長みずからマイクを握って、一日中、商品PRのマイクパフォーマンスをしたりするなど、親しみすいお店づくりも好評です。こうした数々の取り組みが功を奏し、地元のみならず、全国からファンが訪れる人気スーパーとなっています。
小平田:石川県を中心に14店舗を構える「どんたく」も、地域性溢れる売場づくりで知られています。2014年からオリジナルブランド「Fooday(フーデイ)」を展開し、地元の生産者やメーカーとタッグを組んで豆腐や米菓、日本酒など50商品以上を開発しました。このほか、クリスマスケーキやおせちといった季節メニューも、地元の人気菓子店や有名割烹とコラボして提供しています。
こうした事例から見ても、マーケティング理論に基づいた画一的な売場づくりをする大手チェーンが店舗を増やす一方、ローカルスーパーのユニークな売場が対照的に脚光を浴びていると言えるのではないでしょうか。
託児施設に学習塾……。独自の改革で人が集まるローカルスーパー
――では、反対にローカルスーパーが直面している課題はなんですか?
雪元:やはり、最大のネックは人手不足。いまやすべての小売業に共通している課題と言えますが、ローカルスーパーの人手不足は、大手よりもさらに深刻です。企業体力がないため、どうしてもスタッフの賃金を大手より低く設定せざるを得ない。そのため人が集まらない。
しかし、その賃金格差のハンデを「やりがい」で埋めたことにより、人手不足と無縁のローカルスーパーもあります。宮城県を地盤に33店舗を展開する「ウジエスーパー」は、品揃え、売価設定、販促、従業員の採用、労務管理にいたるまで、店舗運営の権限をすべて店長に委譲。ときには本部商品部からの提案に異を唱えて、店舗独自の取り組みを行うケースもあるそうです。
そして、店長の下で働くパートさんの意見を売場づくりに反映させるなど、スタッフの権限も大きくしてモチベーションアップにつなげています。こうした動きが「働きがいのある職場」として評判となり、家庭事情などにより泣く泣く辞めていくパートさんの多くは、その際に知り合いを後任として紹介してくれるそうです。
ある店長は「これまで一度もパート募集をかけたことがない」と言っていました。また、「辞めていったパートさんは、いち消費者としてスーパーを利用してくれる」とも。内部事情を知っている元パートが利用しつづけるスーパーですから、職場としても店舗としても、本当に優良なローカルスーパーなんだと思います。
雪元:従業員の働き方改革としては、敷地内に従業員用の託児スペースを設けるところも増えていますよね。子どもが生まれたあとも、継続して働きやすい環境が徐々に整えられつつあります。
小平田:また人口減少時代ですから、当然、消費の低下も大きな問題です。その対策として、小売以外のサービスを提供することで集客アップにつなげている店舗もあります。
福岡県うきは市にある「サンピットバリュー 浮羽店」では、社員に塾講師経験者がいたことから、2階の空きスペースを利用して学習塾を開いています。生徒が飲み物やお弁当を購入するのはもちろんのこと、家族が生徒の送迎のついでにスーパーを利用するという効果が出ているそうです。
――小売以外にも、地域の人が集まる拠点としての機能も備えつつあるんですね。
小平田:その通りです。ローカルスーパーの中には、衣料品の販売を止めるなどして、空きスペースがある店舗も少なくありません。そうしたスペースを利用して、イベントや料理教室を開催する店舗も多い。
また、レストランを併設し、売り物にならない「キズモノ野菜」を使った料理をリーズナブルな価格で提供している店舗もあります。生産者にとってみれば、育てた野菜を廃棄せずにすむし、消費者は新鮮な野菜を使った料理を低価格で楽しめる。もちろん、スーパーは売上アップにつながる。まさに「三方よし」の取り組みです。
雪元:ECの台頭、大手との価格競争、消費意欲の低下など、ローカルスーパーをとりまく環境は決して優しいものではありませんが、それぞれの地域事情に寄り添った取り組みをし、成功しているお店がたくさんあります。
また最近では、「無人店舗」や「セルフレジ」など、テクノロジーの導入事情も気になるところかと思います。それについては、後編でお話ししましょう。