物流不動産のパイオニア「プロロジス」が切り開く未来の物流――「即日配達」を支える最新鋭の物流拠点を作る理由
世界で物流施設開発をリードする「プロロジス」のデジタル化の取り組みが目覚ましい。IoTを活用した倉庫内業務の効率化やAI物流ロボット導入の提案、ドローンによる施設点検、ロボットを用いた施設管理など施設内のデジタル化は徹底されている。同社の主要カスタマーである物流事業者は、ネット通販などのEC(電子商取引)の急速な市場拡大により大きな転換期を迎えている。そんな中、物流不動産業界のパイオニアである同社が、次世代型物流施設の開発を推し進める一方で、物流業界の人材育成を急ぐ理由とは何か。プロロジス日本法人の山田御酒代表取締役と、増原彰彦・オペレーション部ディレクターのお二人に話を聞いた。
流通加工
流通段階で行なわれる組み立てなどの加工工程のことで、物流の合理化手段の1つ。アパレルの場合だと、商品の検品やラベル貼り、梱包、サイト掲載用の画像撮影、ヌード寸法の採寸、商品紹介のための原稿作成などまで行われる。
「翌日配送」を可能にする物流施設の仕組み
――御社の物流施設の特徴について教えてください。
増原:弊社の物流施設は一般的な倉庫よりも大規模で、ワンフロアだけで東京ドームの半分ほどの大きさのものもあります。施設にはさまざまな業種のお客さまが入居されており、施設内で働く人の数は多いと1000人を超えます。施設の基本的機能はモノの保管ですが、その業務だけで1000人というのは通常では考えられません。というのも、ECの商品なら流通加工といって、検品やラベル貼り、梱包などが倉庫内で行われていたりするのです。さらに、その場で商品をサイトに掲載するために、商品撮影や採寸、原稿書きまで行うカスタマーの方々もいます。
増原:そのように、単にモノを保管するだけの倉庫ではなく、人が仕事をするために長時間過ごす場所でもあるため、快適に働けるよう環境を整えないといけません。ですから、レストランやカフェはもちろん、女性の利用も多いので、施設によってはパウダールームや託児所も設置されています。
――従来の倉庫のイメージとはまったく違い、建物のきれいさ、快適さに驚かされましたが、商品撮影のためのスタジオまであるのですね。
山田:物流の合理化のため、特にアパレルの場合は倉庫内で商品撮影まで行ってしまおうというわけです。消費者が商品到着までのスピードを求めるので、モノがある倉庫内で商品提供に必要な作業を済ませてしまい、注文が入ればすぐ出荷できるよう準備しているのです。
そうしたニーズも踏まえて、EC物流に適した物流拠点として開発した「プロロジスパーク千葉ニュータウン」では、流通加工の代行も行われています。このサービスは、業界では「フルフィルメント」と呼ばれますが、フルフィルメントプロバイダーの「アッカ・インターナショナル」さんとのパートナーシップにより実現しました。
山田:アパレルのオンラインショッピングサイトを運営するZOZOさんもカスタマーの1社で、現在プロロジスパーク千葉ニュータウンはアパレル企業で埋まっています。そして、そのうち、プーマジャパンさんなど複数企業の流通加工を、アッカ・インターナショナルさんが受託し、倉庫内で作業しています。
山田:物流業務を効率化させるための工夫は、各施設の建物自体にも施されています。例えば、大型トラックが直接各階にアクセスできるように、上り下りの専用ランプウェイ(傾斜路)が設けられています。これがないと、トラックを1階に接車させたら大量の荷物を一旦そこに降ろし、エレベーターで倉庫階まで運び、出庫の際にはまたエレベーターで荷物を1階まで降ろさなくてはならない。そんなことをしていたのでは時間がかかり、翌日配送なんて到底かないません。
物流の合理化を目指し、最先端技術を次々と導入
――物流施設の進化が翌日配送の仕組みを支えているのですね。
増原:ハード面の改善に加え、内部のデジタル化も進めています。2018年1月に竣工した「プロロジスパーク市川3」には、「スマートバースシステム™」を導入しました。スマートバースシステムは、トラックの接車スペースである、トラックバースの入出庫車両情報をリアルタイムで確認するためのものです。バースの状況を超省電力無線カメラで常時撮影し、空車か満車かなど、トラックの待機状況に関する情報をリアルタイムで伝えます。
増原:スマートバースシステムはソフトウェア開発企業の「安川情報システム」さんと共同開発しましたが、さらにそこに、ITサービス企業の日本ユニシスさんが提供する「SmartTransport」も連携させました。SmartTransportは、スマートフォンからトラックバースの遠隔予約などを行えるソフトです。両者の連携により、待機状況の表示に加え、バースの予約や監視、管理、トラックの出庫確認までをシームレスにサポート。現場で課題となっているトラックの待機時間の削減や、倉庫内業務の効率化を図ります。
それ以外にも、ドローンを使って屋根や壁面を点検したり、芝刈り機などロボットで施設管理を行ったり、光ID技術を用いた入退館システムを利用したりなど、さまざまなデジタル技術を活用しています。
増原:プロロジスパーク千葉ニュータウンでは、AI機能を持ち、無人で商品を搬送するロボットの導入支援も行いました。このロボットは「ギークプラス」(中国・北京)さんが開発したもので、中国最大のECモールであるアリババグループの「T-mall(天猫)」でも採用されています。これは、国内の物流施設では初の導入でした。
人手不足の事態に備え物流施設のデジタル化を進める
――物流不動産ビジネスといえば、施設を建てて貸すというオーナー業だけを行っているイメージでしたが、なぜここまで物流合理化のためのサービス開発や提供などに力を入れているのですか。
山田:建物の使いやすさや好立地などの条件は、最新鋭と呼ばれる施設は必ずといっていいほど備えています。施設各階へのランプウェイの設置は、弊社が初めて行ったことですが、それも各社が追随して、今や業界のスタンダートになっています。つまり、建物のスペック、ハードの面では他社との差別化が難しくなりつつあるのです。
山田:では、どのようにして差別化を図ればいいかというと、ソフトを良くして施設の付加価値を高めていくことだと考えています。スマートバースがカスタマーの業務を効率化すれば、そのシステムを備える弊社の施設が選ばれるようになるでしょう。また、入退館システムやロボットによる施設管理などで、施設の運営コストを抑えられれば、賃料引き下げにつながり、カスタマーにメリットを享受してもらえるはずです。
――御社はデジタル技術の活用にも積極的ですが、その必要性についてはどのようにお考えですか。
山田:人を集められるうちは人海戦術でも問題ないでしょうが、この先、人手不足が一層深刻化していくことを考えれば、デジタル化は避けて通れないと思います。ロボット芝刈り機をとってみても、人件費を圧倒的に削減できるうえに、常に自動で刈られるため、施設がきれいに保たれます。
山田:以前は、弊社でも“いかに人を集めるか”を議論していましたが、2、3年ほど前、“いかに人を使わず施設を運営していくか”という方向にビジョンを切り替えました。実は、デジタル化を行うよりも、人が手作業する方が、コストがかからない仕事もあるのが現状です。しかし、今はまだお金を出せば人は集まるけれど、そのうち、お金を出しても人が集まらない時代が来るとにらんでいます。それを見越して、積極的にデジタル化を進めているのです。
デジタル化は今後まだまだ進めていく予定です。清掃ロボットや、IoTで倉庫内業務を効率化させる仕組みなどを検証中で、次世代物流施設の開発に向け、歩みを進めています。物流企業にとって、最終目標は無人化でしょうが、無人倉庫を作るには莫大な設備投資が必要になるので、当面デジタル化による効果とのバランスを見ながら、ということにはなりそうです。
自ら情報を公開し、業界全体にイノベーションをもたらす
――デジタル化にあたり、安川情報システムや日本ユニシスなど、多くの企業と協力されていますね。
山田:協業せず、技術やノウハウを抱え込んで、開発を自社で行っていたときもありました。しかし、それでは開発までに時間がかかり、いいものもできない。そこで、専門分野の他企業と協力するようになったのです。
弊社のサンフランシスコ本社はさらに本格的です。2016年に「プロロジスベンチャーズ」を立ち上げ、ベンチャー企業との協業で物流ビジネスを盛り上げていこうと動いていて、現在、出資・提携先は21社に上ります。最近では、将来性があるベンチャー企業が日本にも数多く存在するので、弊社も本社にならって出資や提携を始めています。
山田:データ連携の重要性も感じていて、弊社が保有する倉庫の空きスペースの情報を、物流倉庫プラットフォーム「souco」に提供するなど、データ連携に向けた取り組みにも力を入れています。soucoは、物流施設や倉庫の空きスペースを抱える企業と、スペースを必要とする企業のマッチングサービスです。「倉庫版のメルカリ」だと思ってもらうとわかりやすいかもしれません。
情報の提供には、もちろん障害もあります。空きスペースの情報が公開されれば、空きがあるから不人気なのだと捉えられ、弊社の施設に対する印象を悪くする可能性も考えられますし、情報悪用のリスクも否定できません。そうした理由から、情報を出すのは簡単ではありませんが、それでも、社会的に非常に意義があることだと考えて、実行しています。
データ連携は、どこかが先陣を切らないと、各社が情報を隠し持ったままで進まないだろうと思っていました。それなら、まずは弊社が行動しようと、情報提供に踏み切りました。soucoに関しては、米国で既にそれに似たプラットフォームが構築され、しっかり機能しているのを知っていました。ですから、日本でもうまくいくと確信を持っています。
日本の物流業界を脅かすAmazonやアリババへの対抗策
――協業やデータ連携のためとはいえ、施設や技術、ノウハウなどの情報をオープンにするのは、ビジネスの競争戦略として不利ではありませんか。
山田:それはあまり心配していません。日本の物流施設は、バブルの前の70年代に建てられたものが多く、それらは建て替え時期を迎えています。弊社の計算では、年間1千万㎡ほどの更新が必要で、先進的な物流施設は不足しているのが実態です。つまり、新規参入を受け入れるキャパが、物流不動産業界にはまだあるということです。それなら、技術やノウハウをオープンにして競合他社と高め合う方が業界をより発展させていけます。
また、日本の物流事業者は今後ますます国際的な競争にさらされていきます。これは個人的な見解ですが、AmazonやアリババなどECの巨人たちが、今後自社で物流サービスを始めたら、日本の物流業界は丸ごと乗っ取られてしまうのではないかと心配しています。彼らの存在は脅威です。もっと危機感を持って物流業界全体が協調して、互いに競争力を高めていかないと、困ったことになるのではないでしょうか。
山田:そうした懸念からも、これからますます力を入れていきたいと考えているのが物流業界の人材育成です。日本の物流そのものを進化させるためには、進化の必要性や、デジタル化をはじめとした進化の方法を正しく理解する人材が必要だと思うのです。
というのも、アッカさんと組んでAIロボットを見てもらう内覧会を開くと、何百人も見に来てくれるのですが、実際にロボットを導入する企業はとても少ない。経済状況もあるでしょうが、理解が足りていないのが最大の問題だと思います。担当者がいくら提案しても、トップに「元を取れるのか」と突き返されてしまう。けれど、うまくいくかどうかの保障がなくても、導入して進化に向かわないとダメなのです。世界との競争に勝つためにも、躊躇している場合ではありません。
山田:進化に向かいしっかりした判断ができるリーダーを育てるためには、人材育成こそが重要なのですが、物流学部など専門的教育を行う機関が今のところありません。弊社が物流に携わる人材の育成に力を入れるのはそのためです。早稲田大学に開設している寄附講座「ロジスティクス・SCM」は、今年で13年目を迎えました。さらに、物流企業で働いている若い人たちを集めて、私塾のようなものをスタートさせることも検討中です。次の担い手たちと、物流の未来の話を始めたいと思って、準備を進めています。